著 者:片岡喜彦
出版社:皓星社
出版日:2016年12月16日 初版
評 価:☆☆☆(説明)
このような退職後もありかと思った本。
神戸市兵庫区の古書店「古書片岡」のご店主のエッセイ集。「古書片岡」は労働組合の専従職を定年退職されてご店主が、2009年5月1日に開店、お店は畳7畳の広さしかない。エッセイは、元町商店街の老舗の海文堂書店の縁で発行を始めた書評誌「足跡」に書き継いだもので、開店前の2008年10月から2020年4月まで約12年間の66本が収録されている。
「まえがき」に「業務日誌に少し温かみを加味したような文章」と、著者自身が表現しておられる。業務日誌らしく、来店客数や売上げのこと、本の引き取りなどの取引のこと、来店されたお客さまのことが書かれている。しかしその視点はどこか観察的で、著者の好奇心が垣間見えるし、筆致には対象と読者に対するやさしさを感じる。こうしたことが「少し温かみ」の部分だろう。
本好きの少なくない人が一度は思うように、私も「本屋をやってみたい」と思ったことがある(というか今も思っている)。だから大変参考になった。とても新鮮に感じたこともある。それは「引き取り」のこと。私が「本屋をやってみたい」と思って考えるのは、「本を買ってもらうこと」だけれど、本書には「本を引き取ること」がとても多い。代わりに「本が売れた」話はとても少ない。
古書店だから、蔵書を提供してくれる人がいなくては成り立たない。「本が売れた」話が少ないのは、もともと店舗では売れることが少ないからではある。でも、それだけではない。著者には「残された余生を楽しむため」という開業の目的があり、お店のシャッターにはこう書いてある「本好きの 人・本・心 つなぐ店」。人や本との出会いこそが、著者にとって大事なことなのだ。「引き取り」は、新しい人、本との出会いの場でもある。
最後に。扱っている本が社会科学系で、私には馴染みのない本が多かったのだけれど、一気に親近感が増したことがあった。私が住む街から蔵書の引き取りの依頼があったことだ。わずか1行の記述だけれど、私にはその蔵書に見当がつく。思わぬところで知人に出会ったような気持ちだ。
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