著 者:町田そのこ
出版社:中央公論新社
出版日:2020年4月25日 初版 7月5日 4版 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)
本屋大賞ノミネート作品。
子どもがつらい目に会う話が苦手なので、読むのがつらかったのだけれど、読んでよかったと思った本。
主人公は三島貴瑚、26歳。友人たちの誰にも言わずに東京から大分の小さな海辺の町に引っ越してきた。携帯電話も解約して。周辺の住人の間では「東京から逃げてきた風俗嬢でヤクザに追われている」という噂が立っている。
貴瑚が、ある雨の日に出会った中学生の濡れそぼった体は、やけに薄汚れていた。ここで別れてはいけない気がして家に連れて帰ったその子の、肋骨の浮いた痩せた体には、模様のように痣が散っていた。それは貴瑚が見慣れた色だった..。
物語は、貴瑚がこの中学生と関わることで、一旦は自ら手放した「人と関わること」を取り戻していく様を描く。貴瑚が抱える過去はとても重いものだ。「人と関わること」を手放すに至る事情も重い。この中学生の境遇も負けず劣らず重い。この物語の大半が重い空気に包まれている。
かなりヘビーな本だった。読むのがつらくて途中で本を閉じてしまいたくなる。それでも最後には明かりが見える。ひどい人間がたくさん出てくるけれど、善良で力強い人も闇を照らす明かりのよう登場する。壮絶な人生を送ってきたけれど、それでも貴瑚は人に恵まれた方なのだろう。読者もそのことで救われる。
最後にタイトル「52ヘルツのクジラたち」について。クジラは海中で歌を歌うように、鳴き声を出して仲間に呼びかける。その音の周波数はだいたい10~39ヘルツ。しかし52ヘルツのクジラの鳴き声が実際に定期的に検出されているそうだ。その声は、広大な海の中で誰にも受け止めてもらえない。「世界でもっとも孤独なクジラ」と呼ばれている。
この本は、そのクジラと同じように「受け止めてもらえない声を発している」人たち、そして「その声を受け止めた」人たちを描いた物語。
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