進化のからくり

書影

著 者:千葉聡
出版社:講談社
出版日:2020年2月20日 第1刷 7月7日 第3刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 書いてあるのは「研究」なのだけれど、力強い「物語」を読んだような気持になった本。

 著者は進化学者で巻貝研究の第一人者。本書はその著者が、進化に関する研究のいくつかを紹介する。具体的には「巻貝の巻き方(右巻きか左巻きか)の変異」「カワニナの種分化」「仙台近郊のホソウミニナの棲息環境と形態」「小笠原のカタマイマイの研究」等々。一見して地味な生き物だ。小さな巻貝とかカタツムリとか..地味すぎる。

 そんな地味な生き物の研究だけれど、まったく退屈しない。著者が紹介するのは、研究そのものだけでなく、研究を巡る謎解きのストーリーとその成果だからだ。それから、ダーウィンに始まる世界中の研究者も話題にはなるけれど、多くは著者自身が体験したり関わった研究についてなので、臨場感のある読み物になっている。

 その語り口もなかなかに楽しい。例えば本書の最初の話題は、巻貝の右巻きと左巻きの話なのだけれど、なぜか漫画の「北斗の拳」から始まる。ストーリーをご存じでカンの良い方は、ピンときたかと思うけれど、「北斗の拳」には内臓が左右逆になっている登場人物がいるからだ。(追記すると、ショウジョウバエの内臓逆位に関する遺伝子は「サウザー」と命名されているそうだ)

 また、進化学者の研究が想像以上にタフなものだとも感じた。進化学は今や分子レベルでの研究が「研究室の中」でも進んでいるけれど、標本採取はフィールドワークが基本なのだ。著者がカタツムリの調査のために、小笠原の母島の、左右が50~80メートルの絶壁の上の尾根を越える場面は圧巻だった。本書を書いているのだから、無事に帰ってきたことは分かってはいるにも関わらすだ。

 最後に印象的だった言葉を。

 目の前のたくさんの謎は、進化学者にとって何よりのご馳走である。

 「進化学者」を他のあらゆる「○○学者」に変えることができるだろう。著者によると、私たちの好奇心も「進化の結果」であるそうだ。

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