定年オヤジ改造計画

書影

著 者:垣谷美雨
出版社:祥伝社
出版日:2018年2月20日 初版第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

「自分はこんなではない」と思いながら「絶対にない」とは言えない本。

主人公は庄司常雄。大手石油会社の部長として定年を迎え退職、下請け会社に再就職したがその会社が3ヶ月で倒産してしまい、それ以来は何をするでもなく家にいる。家族は妻の十志子と娘の百合絵、息子の和弘。百合絵は33歳で独身で常雄たちと同居、和弘は30歳で妻の麻衣、3歳の娘の葵、1歳の息子の漣の4人家族で近くのマンションで暮らしている。

冒頭の数ページで常雄がどういう人か分かる。朝「おい、お茶をくれないか」と言って返事がないと「おーい、十志子、いるんだろ?」だ。その声で起きてきた百合絵には「お前はどうして結婚しないんだ。この先、どうするつもりなんだ」。とどめは「ワンオペ育児が大変」の話の流れで「女性には母性本能ってものがあるんだからさ..」だ。

かなり重症な時代錯誤ぶりだけれど、本人は穏やかで理解のある夫であり父であると思っている。でも最近十志子が自分を避けているように思う。百合絵には「(母さんは)明らかに夫源病だよね」と言われる。後には十志子自身から「あなたと一緒にいるときだけ閉所恐怖症で息が苦しくなる」と言われてしまう。

物語は、麻衣が働きだすので、葵と漣の保育園の迎えと、麻衣が帰宅するまでの世話を、常雄がすることになって動き出す。凝り固まった「女性には母性本能があるのだから」感は、なかなか改まらない。でも、一人っきりでの孫の世話は良い経験で、少し考えが変わっていく。

常雄の言動のズレっぷりが笑えるのだけれど、だんだん息苦しくなってくる。「自分はそんなことない」と自信を持って言ってはみるけれど、帯には「こんやつ、おらへんやろ」と笑い飛ばした人が危ない、といったことが書いてあって、さっきまてあった自信はどこかに行ってしまう。

男性にも女性にもおススメ。

最後に備忘録。「イザという時」なんか来ない。女性が黙るのは「納得」ではなくて「諦め」のサイン。

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