スピノザの診察室

書影

著 者:夏川草介
出版社:水鈴社
出版日:2023年10月25日 第1刷 2024年2月1日 第3刷 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 

 「医療」とは、こんなにも広範な意味合いを包含する言葉なんだと思った本

 主人公は雄町哲郎。38歳。京都の町中の病院で働く内科医。以前は大学病院で難しい内視鏡治療をやっていた熟練の医師だという。物語は、マチ先生(同僚の医師や看護師たちは雄町のことをそう呼ぶ)の病院での診察や手術、往診先での患者やその家族とのやり取りを中心に描き、そうすることでマチ先生の医療や人に向き合う哲学を浮かび上がらせる。

 マチ先生が勤務する「原田病院」は、マチ先生の他に3人の常勤医で現場を回している。病院長の鍋島治は外科医で堂々たる体軀と豪快な性格の持ち主。同じく外科医の中将亜矢は遠慮のない物言いが特徴。急患で運び込まれた患者を引き継ぐときに「多分ほっといたら死んじゃうパターン」などと言ってしまう。総合内科の秋鹿淳之介は精神科から内科に専門を移した異色の経歴。豊かなアフロヘアと黒縁の丸眼鏡が目を引く。

 マチ先生も含めて全員がとてもユニーク。中将に「死んじゃうパターン」と言われた救急患者が、処置をされながらこう言う。「ここ、なんや変わった病院やな...」。それを聞いた看護士がこう返す「そうですね。よく言われます」

 読書を楽しめた。「神様のカルテ」の著者であるので、「神様のカルテのような物語」と紹介すれば、大まかなには間違っていないのだろう。言語化すれば「過酷な医療現場にあって、医療への真摯さを忘れない医師たちの優しい物語」とか。

 しかし、それだけだは足りない。マチ先生はこれまでの著者の作品の医師たちの中で飛びぬけてカッコいい。同僚の医師たちはそれぞれにドラマがあって魅力的で、他にもマチ先生を最大限に信頼する先輩医師医師とか、マチ先生を慕う後輩医師たち、ハッとするようなことを言う患者たちとか..。魅力キャラをこんなにたくさん盛ったら、話が絡まったり拡散したりしてしまいそうなのに、ちゃんとマチ先生のところに集約して行き、とても読みやすくて心地いい。

 甘いお菓子、食べたい

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