編 者:高橋源一郎
出版社:朝日新聞出版
出版日:2015年5月30日 第1刷 7月10日 第5刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)
終戦から18年経った日本に生まれた私には、民主主義は所与のものだった。取り立ててそれについて考える必要も感じなかった。しかし、真面目に考えないといけなくなった気がして、今年最初の1冊に本書を選んだ。某書店のフェアの「必読書50」にも、選定しなおした「49冊」にも入っている。
本書は朝日新聞に月に一回掲載される「論壇時評」という記事をまとめたもの。「論壇時評」は、その時々の論壇誌(「中央公論」とか「世界」とか「文藝春秋」とか)の評論や論文を中心に、文芸誌やネットメディアなどからも幅広く取り上げて紹介するもの。時期としては2011年4月から2015年3月まで。全部で48本の記事を収録している。
「時評」と名が付くだけあって、記事の一つ一つがその時の世の中を色濃く反映している。最初の2011年4月は、つまり「3.11」の翌月だ。あらゆるメディアで「震災と原発」をめぐる言葉が溢れた時。著者は「「ことば」もまた「復興」されなければならない」と結んだ。
その後は政治の大きな流れでは、総選挙・政権交代があり、特定秘密保護法案が可決し、憲法解釈変更の閣議決定がされた。社会に目を転じると、生活保護受給者が糾弾され、ヘイトスピーチが街頭で叫ばれる。本書の終盤の2015年2月にはイスラム国による日本人人質事件が悲劇的な結末を迎える。
読み進めていくと、次々と標的を探し出して叩く、そんな不気味な世の中に愕然とする。「愛国」や「正義」という言葉が人を傷つけている。最初の記事の「「ことば」もまた「復興」されなければならない」という著者の言葉が、それから5年経とうとしている「今」を暗示しているようだ。
こんな紹介では絶望してしまいそうだけれど、著者が紹介するのは、その絶望的な状況に抗う「ことば」の数々で、「いったいどうやって見つけたのか?」と思うようなところからも拾っている。「9.11」の時も「シャルリー・エブド」の時も、勇気を持って皆と違うことを発信した人がいた。多様な「ことば」が民主主義につながる。
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