著 者:宮下奈都
出版社:文藝春秋
出版日:2015年9月15日 第1刷発行 2016年4月15日 第10刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)
今年の本屋大賞受賞作。著者の宮下奈都さんの作品を読むのは「誰かが足りない」以来(他には「Re-born はじまりの一歩」の中の短編も)。
主人公の名前は外村。北海道の山の集落で育ち、高校生の時の偶然の経験をきっかけに、ピアノの調律師になった。本書は、外村がピアノの調律師として楽器店に就職してからの2年あまりを描く。
外村は、ピアノが弾けない、音感がいいわけでもない。それでも調律師として仕事を任されるようになり、一進一退しながらも、評価してくれる顧客も現れる。それは、良き先輩調律師たちに囲まれたからと、山育ちの外村が他の人が持っていないものを持っていたからだ。
彼の中にはたくさんの「美しいもの」が蓄えられていた。そのことに彼自身が気付く場面は印象的だ。彼は物事を素直に見つめる目を持っていた。本人は意識せずとも、そのことが顧客の少女を救い、その少女が彼を導くことになる。
本屋大賞で書店員さんの評価が高いのも分かる気がする。読んでいて心地いい。できれば長く読んでいたい。読み始めてすぐに、ずい分前に読んだ小川洋子さんの「猫を抱いて象と泳ぐ」を思い出した。その時のレビューに「静謐な音楽か詩のような文章」と私は書いているけれど、本書もまさにそんな感じだ。
もっと言えば、本書はピアノの調律を主題にしているからか、「音楽」そのもののようにも感じる。中山七里さんの「さよならドビュッシー」もそうだったけれど、本書からは「音楽」が聞こえてくる(ような気がした)。
本を読んでいると時々、こんなふうに文章からリアルな感覚が呼び起こされることがある。そんな「文章の力の可能性」を感じる作品だった。
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