著 者:井上麻矢
出版社:集英社インターナショナル
出版日:2015年11月30日 第1刷 12月19日 第2刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)
本書は2010年に亡くなった、小説家・劇作家の井上ひさしさんが、三女の麻矢さんに残した言葉をまとめたもの。麻矢さんは、井上ひさしさんの劇場である「こまつ座」を引き継いで、代表取締役社長を務める。
父が遺した言葉を娘が記す、高名な作家の父娘愛を感じる話だけれど、本書の場合はそれだけではない。私にはそれは、父から娘への「命の引継ぎ」のように思えた。ここに記された言葉は、がんの告知を受けてまもなく、ひさしさんが麻矢さんに、病院から日課のようにかけた電話で伝えられている。それは夜中の11時すぎから明け方まで、時には朝の9時まで続いたそうだ。
傲慢に聞こえるかもしれないけれど、ひさしさんは自分の作品が自分の死後も生き続けることを構想していたらしい。チェーホフやシェイクスピアの作品がそうであるように。そのために必要なことを麻矢さんに託した。
過去には確執もあったそうだし、どこまでも自己中心的な行いに見えるかもしれない。しかし、このことが麻矢さん自身に生きる芯を与えたのだから、やはり父娘愛でもあるのだ。
そして全部で77もある言葉のいくつかは、麻矢さんを越えて私たちにも語りかけてくる。だからこその書籍化だ。「問題を悩みにすり替えない。問題は問題として解決する」「自分という作品を作っているつもりで生きていきなさい」「決定的な言葉は最後まで口から出さない」折に触れて思い出したい。
最後に。ひさしさんはイタリアのボローニャという街を愛していた。そのことは「ボローニャ紀行」というエッセイに、詳細に綴られている。本書ではそのボローニャのことも書かれていて、麻矢さんも訪れたそうだ。そこでひさしさんの足跡に出会う。縁がつながる。
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