著 者:村山早紀
出版社:PHP研究所
出版日:2016年10月4日 第1版第1刷 2016年11月10日 第2刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)
本屋大賞ノミネート作品。この著者の作品を読むのは初めて。申し訳ないけれどお名前も知らなかった。
主人公は月原一整。老舗百貨店の6階にある、これまた老舗の書店「銀河堂書店」の文庫担当。学生時代のアルバイト時代から数えて10年というから20代後半。売れる本を見つける才があるらしく「宝探しの月原」と言われている。そして、なかなかのイケメン。
万引き事件がきっけけとなって、一整は銀河堂書店を辞めた。学生時代からのアルバイトを含め、書店員しかしたことがない。いやもっと以前から、本は一整と共にあった。とはいえ、すぐには書店の仕事は見つからない。導かれるように、以前からネットで交流があった田舎町の書店「桜風堂」を、一整は訪ねることにした。
物語は、一整が訪ねた桜風堂と、一整が辞めた後の銀河堂書店、それぞれを取り巻く人々を描く。銀河堂書店の書店員たちなどたくさんの視点で、時に時間を遡ったりしながら描く。世の中の悪意と、それを上回る善意。「さあて、わたしは何をしようかな」というセリフが心に残る。皆があの人とあの本のためにできることを探している。優しさに満ちた物語だ。
いろいろと「多すぎる」。登場人物が多い。そのそれぞれの造形を描き込むのでエピソードが多い。「実は...」という後で明かされる秘密が多い。上に書いたように語られる視点が多い(猫視点まである)。情景描写に費やす言葉も多いように思う。何よりも人の「善意」が多い。「多すぎる」かもしれないけれど、それがいい。
最後に。本屋さんの書店員の物語だから、本屋さんの書店員が選ぶ「本屋大賞」のノミネートは「なるべくしてなった」と言える。もちろん、物語としての完成度が低ければ論外だけれど。本書はそうではない。
しかも「書店員の物語」というだけではない。本屋大賞の設立趣旨は「売り場からベストセラーをつくる」。そのために書店の境界を越えて書店員さんが協同している。「宝探しの月原」をはじめ、登場する書店員の全員が、本屋大賞の「心」を持っている。著者もなかなかやるもんだ。
人気ブログランキング「本・読書」ページへ
にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
(たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)