著 者:森達也
出版社:ダイヤモンド社
出版日:2015年1月29日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)
古い新聞記事をきっかけに本書を読んでみた。それは1925年の朝日新聞の4つの記事。「世論の反対に背いて治安維持法可決さる」「無理やりに質問全部終了 修正案討論に入る」「社会運動が同法案の為抑厭せられることはない」「定義はハッキリ下せぬがこの法律だけは必要だといふ」という文字が読み取れる。
※その記事はこちらで見られます。
最初はこの記事の画像をネットで見て、その真偽を確認するうちに、本書に紹介されていることを知った。この記事を見た時の私の気持ちに、共感してくださる方が多いことを祈る。「これは今の(共謀罪を巡る)状況にそっくりじゃないか」「歴史を繰り返しているんじゃないのか」ということ。本書を読むと、著者は私と同じ気持であったことが分かる。
著者はノンフィクション映画監督で作家でもある。本書は著者がそれまでに書いた雑誌のエッセイや連載と書下ろしをまとめたもの。タイトルのとおり「自衛意識から戦争が始まる」ということを、繰り返し説明している。それはノンフィクション作家らしく、紛争や戦争の現場に足を運んで、人から聞き肌で感じた「実感」だ。
例えば、パレスチナ避難民が暮らす難民キャンプ。例えば、南北に分断されたキプロスの境界線。その他には「かつての現場」である、アウシュビッツの収容所跡の博物館、南京大虐殺記念館、北朝鮮の戦勝記念館に。どこでも共通するのは、自分たちを「守る」ために戦い、そのためには「善良なままに人を殺す」そういう姿だ。
本書にはその他に、知っておいた方が良い事柄がたくさん書いてある。例えば、南京大虐殺記念館にある「百人斬り超記録」という日本の新聞記事。日本の軍人がしていた「中国人を何人斬ったか競争」の状況を国内に報じていたのだ。例えば、韓国人なら誰でも知っているのに、日本人はほとんど知らない「乙未事変」。朝鮮の王妃が日本の公使に軍刀で殺害された事件だ。
こういったことを「自虐史観」と非難する人たち向かっては、「呼びたければ呼べ」と著者は言う。振り返って「戦争はダメ!」という人にも「それだけではダメだ」と言う。「戦争のメカニズムを知らないと「戦争を回避するために抑止力を」というレトリックに対抗できない」。それではまた繰り返すことになる。...肝に銘じよう。もうすでに繰り返しが始まってしまっているのだから。
最後にもう一つ。キプロスの分断された両側の地区に、若者たちが描いた「禁止マークに入った銃」と「ヘッドホン」の落書きがたくさんあるという。これは彼らの「銃は捨てる。音楽を聴く」というメッセージ。
日本のネットなら「お花畑」と言われるだろう。「とことん話して、酒を飲んで..」と言った学生を袋叩きにしたように。正直言って私も「甘い」ように思うのだけれど、このことが本書の中で希望を一番感じたことだった。これが唯一、解決につながる道なのかもしれない。
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