著 者:和田秀樹
出版社:朝日新聞出版
出版日:2017年7月30日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)
タイトルにある「息苦しさ」とは何を指しているのか?それを示す「はじめに」の冒頭を引用する。「取るに足らないスキャンダルでいつも誰かが血祭りにあげられ、生活保護受給者がバッシングされ、タレントの他愛ない軽口や気に入らないテレビCMがネットで炎上...」。些細な失敗や少しの逸脱が許されない、そういう「空気」を「息苦しい」と言っているのだ。
これはあえて指摘されなくても、多くの人が感じていることだと思う。著者は精神科医で、この「空気」を心理学的に解き明かそうと試みている。それができれば対応の仕方もあるし、何より少し気が楽になるはず、と言う。私もそれを期待して本書を手に取った。
まず、著者は「日本人がきわめて感情的になっていることが原因」という仮説を立てる。「感情的」というと「カッとなって怒鳴る」ことなどをイメージしやすいが、著者が指摘するのは、こうした「怒り」の感情ではなくて、「不安」の感情に支配されている、ということだ。
嫌われたくない、損をしたくない、失敗したくない。「不安」の感情であっても「感情」に支配されると、理性的な判断を抑え込む。認知科学の知見によると、そうなると人間は「一つの解答に飛びついてしまう」「正義か悪か、敵か味方かをはっきりさせたい」という傾向があるそうだ。
さらに、「自己肯定感」の不足が弱者への攻撃に向かわせる。脳の老化は思考の多様性、柔軟性を失わせるので、高齢化も「息苦しさ」の一因になっている。といった指摘が続く。心理学的には、これで現状をすっきりと説明できる。
その説明通りなら完全な悪循環に陥る(そして多分そうなのだ)。なぜなら「不安」の感情が原因となって、些細な失敗や少しの逸脱が許されない「息苦しさ」を生み、その「息苦しさ」はさらなる「不安」を招くからだ。どうにかして逆回転させないと止めどなく落ちこんでいく...。
その逆回転の処方も書いてある。悪循環が「社会全体」のことであるのに対して、その処方は「個人」レベルの考えや行動なので、いかにも心細い限りだけれど、私たちができることはそれしかない。
最後に。本書の内容と直接のつながりは希薄だけれど、心に残った言葉を。「私が理想とするのは、人生において輝いている時期がなるべく遅い時期にあること」。これは著者が老年医学の臨床現場で学んだことだそうだ。50歳を優に超えた私も、まだ先で輝きを得たい。
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