福島第一原発 1号機冷却「失敗の本質」

書影

著 者:NHKスペシャル「メルトダウン」取材班
出版社:講談社
出版日:2017年9月20日 第1刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 本書は、NHKスペシャルの「メルトダウン」という6回シリーズの取材班が、福島第一原発の事故について、6年間にわたる取材によって明らかになったことを1冊の本にまとめたもの。タイトルの「失敗の本質」は、言うまでもなく、大東亜戦争時の日本軍の戦い方を研究した名著「失敗の本質」を倣ったものだ。

 かの本は、旧日本軍の失敗の研究成果を、現代の日本への教訓として活用することを目的とした。同じように本書は、福島の事故を将来の日本への教訓として生かすために、あの時の真相と深層を記録する。

 取材班がまず着目したのは、1号機に付いていた冷却装置の「非常用復水器」だ。英語でアイソレーション・コンデンサー(Isolation Condenser)、通称「イソコン」。電源がなくても原子炉を冷却できる。全電源を喪失した今回の事故のことを考えると切り札的な存在だ。

 この切り札の「イソコン」が有効に働かなかったことが、最大のターニングポイントになった。1号機の冷却が進んでいれば、水素爆発もメルトダウンも起こらなかった、と考えられている。では「イソコン」は動かなかったのか?否、ちゃんと起動した。故障してしまったのか?否、予定通りに動作した。では、なぜ?

 答えをここに書くのは簡単なのだけれど、敢えてそうしない。答えだけを知ると、その原因を作った誰かの「責任」だと思うだろう。その誰かを「犯人」にしてしまうに違いない。でも、この本はそうしたことを望んでいない。本書を読めば犯人探しが目的ではないことは、はっきり分かる。

 それは、特定の誰かが「悪い」と決めたところで「将来の日本への教訓」にはならないからだ。必要なのは「なぜそれが起きたか」「どうすれば防げたか」だ。海水注入を中断させたのは「何と菅総理その人だったのです」なんてメルマガに書いた人がいた。「犯人」を特定して晒して得意がる低俗さを、本書は持ち合わせていない。

 ちなみにこの「海水注入中断」問題についても、本書にとても詳細に記されている。取材班の取材の執拗さから考えて、これがおそらく真相だ。5年半経って重要な事実も判明したのだけれど、これがけっこう切ない。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です