最後はなぜかうまくいくイタリア人

書影

著 者:宮嶋勲
出版社:日本経済新聞出版社
出版日:2018年1月5日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 著者はイタリアと日本で「ワインと食」について執筆するジャーナリスト。イタリアではワインガイドの試飲スタッフ、日本ではワインセミナーの講師なども務めている。イタリアと関わるようになって35年。そんな著者が「イタリア人ってこんな人たちなんだよ」を語る。イタリアとイタリア人、そして日本への愛を感じるエッセイ集。

 「はじめに」で紹介するエピソードに本書のエッセンスが詰まっている。30年ほど前、著者はCMの撮影で日伊混合の撮影隊の通訳として参加。現地のイタリアで準備するはずの機材が届いていない。急いで手配するイタリア側、憤って何度も「どうなってるんだ」と催促する日本側。

 そこでイタリアのプロデューサーが著者に話した言葉が、多くを教えてくれる。「機材の手配も済んだし、あと2時間で到着する。時間は遅れるが、この撮影は必ずやり終える(中略)イライラしないで、機材が着いたときにいい絵を撮れるように、リラックスするように日本側に言ってくれ

 著者によるとイタリア人は、「時間にルーズ」で「段取りが苦手」で「嫌なことは後回し」で「規則を破っ」て「コネに頼る」。日本的な「美徳」とは正反対なことばかり、これじゃぁダメダメ人間だ。冒頭の撮影隊のようにイライラさせられることは必至だろう。特にビジネスで付き合うとなればなおさらだ。

 とはいえ、本書はイタリア人をこき下ろす本ではない。多少の問題はあるにしても、イタリアはEUの中核を担う経済大国。ファッション、車、食品などの分野で世界をリードする製品も生み出す。決して単なる「怠け者大国」ではない。日本的に見ればダメダメでも、それを補う何かがあるはず。

 本書を読めばその「何か」が少し分かる。例えば「不測の事態への対応力」はその一つ。上に書いたような人々の国だから「予定通りに行かない」ことの方が普通。それへの対処を繰り返しているうちに「なんとかする力」が身につくらしい。冒頭のプロデューサーが「この撮影は必ずやり終える」と言ったのは、その場しのぎでも強がりでもなく、そういう自信があったからなのだ。

 日本的な美徳は素晴らしいし、その価値を誇ってもいいのだけれど、それは「最上」でも、ましてや「唯一」でもない。そんなことが分かった。

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