日本が売られる

書影

著 者:堤未果
出版社:幻冬舎
出版日:2018年10月5日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 最初に注意書きを。「とにかく今日を穏やかな気持ちで過ごしたい。何年か先に安心安全な暮らしが失われても構わないから」という人は、読まない方がいい。本書も、この記事も。

 帯に「日本で今、起きているとんでもないこと」とある。本当にとんでもないことが起きている。

 タイトルの「日本が売られる」とは、この日本で、私たちの生活に欠かせない様々なものが、値札を付けられて(主に外資に)売られるという意味。本書冒頭にある「水が売られる」を例として紹介する。

 水道を運営する自治体の財政は苦しい。国は責任を取らず代わりに打ち出したのが「民営化」。「民間企業のノウハウを生かし、効率の良い運営と安価な水道料金を」というわけ。民営化とはその事業を企業に売ることに他ならない。売れば何億、何十億ものカネが手に入る。自治体にとっては魅力的だ。

 さらに、これを後押しするための法改正が度々行われている。例えば、「運営」を売った自治体には、地方債の利息免除をいうニンジンをぶらさげる。現在審議中の水道法改正案が成立すれば、また、企業側の優遇として、こんなことになる。

 (1)「所有」と「運営」を分離して、企業は「運営権」だけを持つことで、安定供給の責任を持たな句てすむ。つまりノーリスクで、収入だけを得られる。(2)これまでは厚生労働大臣の「認可」が必要だった料金改定を「届け出」でできる。(3)料金設定の規定に「健全な経営を確保することができる」と入ったことで、料金の値上げを正当化できる。

 まぁこれでも、企業が住民のための運営を行ってくれればいい。コスト重視で水質が悪くなったり、まずくて飲めなくなったり、料金が高くなったりしなければいい。ところが、日本より先に水道民営化が進んでいる各国では、こうしたことが起きて、違約金などで大金を支払ってても再公営化をするところが増えている。

 本書では「水」以外に「土」「農地」「森」「海」「学校」「医療」「食の選択」が、値札を付けられて売られる様子が、詳細に記されている。「タネ」という項目もあるが、こちらは「売る」のでさえなく、コメをはじめとした食物の種を、外資のバイオ企業から日本の農家が「買わされる」という、ショッキングな内容だ。

 最初に注意書きを書いたのは、私自身が読んでいて悲観にくれてしまったからだ。こんなひどいことを誰がやっているかというと、「規制改革」と称して政府がやっている(外国に行ってセールスまでしているらしい)。希望があるとすると、政府が変われば、防げるかもしれない、ということだ。

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