絵を見る技術

書影

著 者:秋田麻早子
出版社:朝日出版社
出版日:2019年5月2日 初版第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 この次に美術展に出かけるのが楽しみになった本。

 「名画をちゃんと見られるようになりたい」。本書はそういう人のために絵画の見方を「絵画の構造」の視点から説明する。「フォーカルポイント(主役)はどこか」「視点移動の経路はどこか」「バランスがよいとはどういうことか」「なぜその色なのか」「構図と比例のパターン」「全体的な統一感」を、章を建てて、実際の名画の豊富な実例を示して具体的に解説してくれる。

 例えば最初の「フォーカルポイント(主役)はどこか」では、まず「画面にそれひとつしかない」「顔などの見慣れたもの」「そこだけ色が違う」「他と比べて一番大きい」などの分かりやすい特長をあげる。次に「明暗の落差が激しいところ」「線が集まっているところ」など、少しテクニカルな見方を紹介する。

 こんなテクニックを覚えなくても「絵なんて好きなように観ればいい」という意見は、至極まっとうだと思う。私もこれまでそういう考えで美術展に足を運んで名画と対峙してきた。それで「あぁこの絵いいな」と感じた作品のポストカードを購入して帰る。それで満足してきた...

 いや「満足してきた」のは違っていて、だからこの本に手が伸びたのだろう。いや、正直に言うと「何か見逃してきたんじゃないか?」という気持ちは常にあった。本書の冒頭にあるちょっとしたテストをやって、その気持ちは「間違いなく見逃してきた」という確信に変わった。「観ているが観察していない」シャーロックホームズの一節らしいけれど、まさにそう痛感した。

 絵を見る技術を知ることの効果を、ラグビーワールドカップの観戦を例にすれば分かりやすいかも。予備知識のない「にわかファン」でも、懸命にボールを前に運ぶ姿に興奮し感動もすることができる。でもラグビーのルールや戦術を知っていれば、もう一段深い楽しみ方ができるはず。

 それでもテクニカルに寄り過ぎて楽しくなくなったら意味がないので、賛否は残ると思うけれど、美術鑑賞が好きな方には一読をおススメ。

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