著 者:加納朋子
出版社:幻冬舎
出版日:2019年6月25日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)
「幼馴染の男女の甘酸っぱい物語」と思っていたら、それだけじゃなかった本。
主人公は森野護と平石徹子。本書の始まりの時には二人とも中学3年生だった。でも、二人の物語はもっと前から始まっている。幼稚園から中学まで同じ学校。いやもっと前、家が近くで生まれた日も近いため、母親同士が仲が良かった。つまり、赤ちゃんの時からの幼馴染。でも護に言わせれば、「恋とか愛とか好きとか惚れたとか、そういう話では全然ない」という仲。
それは徹子が「ほんとにワケわかんない」やつだからだ。登校中に仲良しでもなんでもないクラスメイトの手をいきなりつかんで早足に歩き出したり、道端で知らないおばあちゃんに抱きついたり、帰りの会で唐突に発言してクラスを議論の渦に巻き込んだり...素っ頓狂なことばかりやっている。普段は真面目な優等生なのに。
本書は護視点の前半と、徹子視点の後半の二部構成。前半は中学生の護が過去を振り返りつつ始まり、徹子と別の学校に進学した高校生の時、遠くの大学に進学して成人式に帰ってきた時、就職して近くの支店に異動になって実家に戻ってからと、人生の折々のエピソードを綴る。もちろん、そこには徹子が「腐れ縁の幼馴染」として登場する。
幼馴染の男女。関係が近くなったと思ったら、また適度な距離感に戻ったり。「そういう話か。まぁいい話だな」と思う。エピソードのそれぞれも面白い。でも「何か物足りないよね」と感じつつ前半が終わってしまう。
ところがその「物足りなさ」は、徹子視点の後半が始まってすぐに消えてなくなる。前半の甘酸っぱい雰囲気もやがてなくなり、中盤からはキリキリと引き絞るような緊張感が覆う。
著者は、あの「物足りない(何回も繰り返して著者には申し訳ないけれど)」前半に、何気ない風を装ってこんな仕掛けをしていたのか!!と感嘆符を重ねた気持ち。
帯の「あの頃のわたしに伝えたい。明日を、未来をあきらめないでくれて、ありがとう。」という言葉が、読後にじわじわくる。
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