トーキョー・プリズン

著 者:柳広司
出版社:角川書店
出版日:2006年3月31日 初版発行
評 価:☆☆☆(説明)

 少し前に「占領下の日本」を調べたことがあるのだけれど、やっぱり「得体のしれない空気感を感じる時代」だなぁと思った本。

 帝国陸軍のスパイ組織「D機関」を描いた「ジョーカー・ゲーム」から始まる4部作がとても面白くて、続編を期待しているのだけれど出ない。装丁の雰囲気が似ている本書も読んでみた。(刊行は本書の方が先)

 舞台は1946年の東京と巣鴨にあった東京拘置所「スガモプリズン」。戦後すぐの米国占領下で、いわゆる東京裁判の被告となる戦争犯罪容疑者が多数収容されていた。主人公はエドワード・フェアフィールド。28歳。ニュージーランドの元海軍少尉。スガモプリズンには行方不明の知人の消息の調査のために来た。

 同盟国の元兵士とは言え、管理する米軍としては、調査に協力する義理はなく、厄介な交換条件を付けて許可をした。キジマという日本人の囚人の担当官として話し相手になれ、というのだ。キジマは戦争中の捕虜虐待の容疑で収監されている。ところが本人はその戦争中の記憶を失っていた。

 記憶喪失だけがキジマに担当官を付ける理由ではない。キジマには常人にはない能力がある。とてつもない推理力があって、薬物で自殺したナチスの高官の写真を見ただけで、その薬物の入手方法を言い当ててしまう。実は、スガモプリズン内でも青酸系毒物での中毒死事件が起き、米軍はその真相をキジマに解明させようとしていた。フェアフィールド氏は、その補佐にあたることになる。

 読み始めてすぐ「これは面白そうだ」と思った。私が好きな「ジョーカー・ゲーム」のD機関のスパイたちも、常人離れした記憶力、判断力を持っていて、キジマの人物設定はそれを思い出させる。「特別独房」に入ったままで的確に推理を巡らせる姿は、アームチェア・ディテクティブの変型だ。

 スガモプリズン内の中毒死事件だけでなく、キジマの捕虜虐待と記憶喪失に至る真相、フェアフィールド氏とキジマの関係性の変化、彼の本来の目的である知人の調査が、占領下の日本の状況を背景にして、起伏のあるストーリーを重ねて描かれる。「誰か映画にしてほしい」と思うミステリー・エンターテインメント作品だった。

人気ブログランキング「本・読書」ページへ
にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
(たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です