著 者:NHKスペシャル取材班
出版社:講談社
出版日:2020年11月20日 第1刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)
「立ち止まれない」ことに怖気がした本。
本書は2020年4月に放送されたNHKスペシャル「デジタルVSリアル」の取材班が、番組の内容を軸に放送では伝えきれなかった取材内容を盛り込んだもの。大きく2つのテーマがあり、前半のテーマは「フェイク」、後半は「プライバシー」。「私たちの社会を自由に豊かにしてくれる」と期待していたデジタル技術の、不自由で非民主主義的な側面をあらわにする。
まず「フェイク」から。フェイク情報によって「子どもの誘拐犯」の濡れ衣を着せられ、集団リンチを受けて2人が死亡した、メキシコで実際にあった事件が紹介されている。リンチを加えたのは怒りにかられた市民。「その人たち大丈夫か?」と思う。しかし同様の事件は世界各地で起きている。「日本では起きない」とは言えない。
さらに深刻なフェイクも。「ディープフェイク」という技術を使えば「ある人があることを話しているビデオ」が作れる。見ただけではフェイクと見破ることはできない。今は、女優やタレントの「フェイクポルノ」が問題になっているけれど、「動かぬ証拠」であった動画映像が簡単に作れるのだから、誰かを陥れることも簡単になった。時代はさらに先へ進み、今はそれがビジネスになっているという…暗澹たる気分だ。
次に「プライバシー」。スマホの利用履歴から持ち主の人物像がどの程度分かるか?そんな実験が報告されている。結論から言うと、住所、氏名、職業、趣味、経済状態、異性関係..プライバシーが丸裸にされてしまった。おまけに「新しい仕事を始める」という未来予知まで的中させてしまう。
「まいったなぁこれは」が感想。技術の進歩がこんな息苦しい社会を招くなどと思いもしなかった。もう立ち止まれないのか?
最後に。とても気になったこと。それは、こんな状況を問題だと思っていない人たちが相当数いそうなこと。「フェイク」をビジネスにしているある人物は「ディープフェイクは単なる道具。テクノロジーは進化していかなかればなりません」と言う。別の人物は「フェイクビジネスという新たな道を切り開いてきたことに誇りを持っています」と言う。
プライバシーを丸裸にされた人物も「あの程度なら全然問題ないかな」と言って去っていった。
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