マナーはいらない 小説の書きかた講座

著 者:三浦しをん
出版社:集英社
出版日:2020年11月10日 第1刷 12月6日 第2刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 創作の現場が良く分かってよかったけれど、こんなに種明かしをしてしまっていいの?と思った本。

 コバルト文庫の「WebマガジンCobalt」に、著者の三浦しをんさんが連載していた「小説を書くためのプチアドバイス」を一冊にまとめたもの。著者は「コバルト短編新人賞」の選考委員を務めていて「ここをもうちょっと気をつけると、もっとよくなる気がする」とか思っていたらしい。連載を始めるいきさつは本書の「まえがき」に書いてある。

 本書は、フルコースのディナーに見立てた構成になっていて、全部で24皿もある(「多すぎるだろ」と著者もおっしゃっている)。一皿目から順にあげると「推敲について」「枚数感覚について」「短編の構成について」「人称について」「一行アキについて」「比喩表現について」「時制について」...。ご本人は途中で何度か「様子がおかしくなっている」と、謙遜というか自虐してみせたりしいるけれど、これは真正面から書いた「小説の書き方講座」だと、私は思う。とても参考になる。

 例えば「人称について」。一人称は「郷愁や抒情を醸し出しやすい。過去の出来事を振り返る、といった物語のときにひときわ効力を発揮」。でも「視野が狭くなりやすく、閉塞感が出てしまうおそれがある。語り手の外見について書きのくい」。三人称は「視点が切り替わったことが分かりやすい。描ける範囲が広い」。でも「語っているのは誰なの?神なの?作者なの?という疑問がつきまとう」

 小説を少し分析的に読む人にとっては「人称」は一般的な関心でもある。「村上春樹が三人称を使ったのは...」なんて話が好きな人はたくさんいると思う。ただ「書く立場」で考えるとこうなんだ、ということを、こんなに分かりやすく胸に落ちるように聞いたのは初めてだ。本書にはこのように「書く立場」ではこうなんだ、ということがたくさん書いてある(「小説の書き方講座」なのだから当然と言えば当然なのだけれど)

 本書を読んでいて、知り合いから「いよいよ書くのか!」と茶化されたけれど、私にはそういう気はもちろんない(今後ずっとないとは断言できないけれど)。じゃぁ何の役にも立たないのでは?と思われるかもしれないけれど、そうでもない。例えば、サッカーの経験がある人は経験がない人よりも、同じゲームを見ても違う楽しみ方があると思う。それと同じで著者の意図や工夫が少しわかれば、より小説が楽しめるかもしれない。

 また、三浦しをんさんらしい読んで可笑しいエッセイ集としても楽しめる。

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