JR上野駅公園口

書影

著 者:柳美里
出版社:河出書房新社
出版日:2017年2月20日 初版 2021年1月9日 17刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 奥の深い名作なのだとは思うけれど、今の自分には合わないかな?と思った本。

 2020年の全米図書賞翻訳文学部門の受賞作品。全米図書賞のことはよく知らなかったけれど、それで興味を持ったので読んでみた。

 主人公は上野公園でホームレスとして暮らしていた男性。自身のホームレスとしての生活を過去形で語っているから、今は違うのだろう。昭和8年今の上皇陛下と同じ年に、福島県相馬郡八沢村に生まれた。昭和38年、東京オリンピックの前年に東京に出稼ぎに来た。60歳で帰郷するも数年してまた東京に来て上野公園で暮らし始める。

 主人公の人生を追って紹介したけれど、物語ではこのように簡潔には描かれていない。12歳で出稼ぎの漁に出る、成人して結婚、東京で土木工事の出稼ぎ、その間にあった子供の誕生とその死、帰郷後の出来事、ホームレス生活、そして現在。様々な時代のことが、主人公のひとり語りで目まぐるしく前後する、特徴的な構成だと思う。

 読んで楽しい物語ではない。「運がない」。主人公が母親に言われるし自身もそう言う。子どもを先に亡くしているし、妻にも先立たれた。12歳で出稼ぎに行かなくてはならなかったし、人生の大半は貧乏だった。「運がいい」とは言えない。

 ただ、妻子や親が相次いで亡くなってしまったけれど、主人公には気にかけてくれる人がまだいたのに、どうして..。と思ってしまう。

 ここまでは感想。ここからはちょっと解説。主人公が上皇陛下と同い年で、実は息子は天皇陛下と同じ日に生まれている。その他にも天皇家が関係するエピソードが多く描き込まれていて、主人公の人生との対比と距離感が、日本人の心性をうまくかもし出している。見方によってはずいぶんと奥の深い作品だと言える。

 さらに言えば、天皇制以外にも、敗戦、高度成長、東日本大震災が描き込まれている。国内よりも米国でまず評価されたのには、この作品に「(異文化としての)日本」を感じたからではないかと思う。

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