妖女サイベルの呼び声

書影

著 者:パトリシア・A・マキリップ 訳:佐藤高子
出版社:早川書房
出版日:1979年2月28日発行 2003年10月31日13刷
評 価:☆☆☆(説明)

 「茨文字の魔法」で、その世界観と壮大な物語で楽しませてくれた、マキリップの1974年の作品。1973年が著者のデビューの年だから、最初期の作品といって良いだろう。そして、そのデビュー間もないこの作品は、1975年に創設された世界幻想文学大賞の第1回大賞を受賞している。「新星現る!」といったところだったろう。四季さんから薦められて読みました。

 サイベルは妖女、魔術を使い生きとし生ける者を呼び寄せることができる。彼女は父や祖父が集めた魔獣たちと山深い館で暮らしている。バラッドを吟唱する猪、古代の王女を救いだしたと言われる黒鳥、竜やライオン、隼など。それぞれに並はずれた能力を持ち、伝説の中にその名を残す獣たちだ。
 サイベルは、自身の魔術と自分に従う魔獣たちの力によって、絶大な力を持つ。故に山深く静かな暮らしが許されず、館に若い貴族や王たちが訪れて、俗世の権力争いに否応なしに巻き込まれていく。ここに子を思う気持ちや、愛する人に対する思いなどが組み合わされて、不思議な空気に包まれた物語が展開していく。

 読み終わって見ると、ファンタジーというくくりは確かにそうでも、私の知っているどの話にも似ていない独特な物語だった。サイベルが使う魔術は、人や魔物を呼び出したり操ったりするものなので、ドンとかバンとか音がするようなアクションシーンはない。それでいて、他のどんなファンタジーよりも「魔術」を強く感じる。アクションの代わりにサイベルや他の人の心理を丹念に描くことで、ストーリーが牽引される。そんな物語でした。
 実は「サイベルの心理」ということについては、私は大いに不満がある。サイベルは何度か決断を迫られるのだが、その度に私は「サイベルさん、それは違うよ」と思った。終盤に差し掛かるあたりで一度本を閉じてしまったのだが、それもそのせいだ。

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4つのコメントが “妖女サイベルの呼び声”にありました

  1. YO-SHI

    風竜胆さん、コメントありがとうございます。

    魔女が魔獣たちを使うというよりは、魔獣たちが魔女をサポートする
    といった感じの主従関係です。
    伝説の獣たちですから、誇り高いんですね。

    常に正しく慎重な決断ばかりでは、その後のドラマは生まれない
    とも言えるので、決断が間違っていること自体は構わないのですが、
    私ならそうしないと言うか、私が相手ならそうして欲しくない、
    と言うか...。
    これ以上はネタバレになりそうで言えません...。
     

  2. 四季

    なんていうか、ファンタジーというよりも
    神話のような雰囲気の作品ですよね。
    こんな雰囲気の作品、今も昔も他に知らないです。

    サイベルは自分が孤独なことも知らなかったほどで
    愛も憎しみも知識としてしか知らなかったわけですし
    それもまた1つの造形だったのではないでしょうか。

  3. YO-SHI

    四季さん、コメントありがとうございます。

    四季さんに紹介していただいたこの本、他の本にはない
    本当に独特の雰囲気がありました。
    以前に四季さんも言われていましたが、ハヤカワ文庫の
    FT1という30年前の本が今も手に入るっていうのも驚き
    でした。(近所の書店には置いてありませんでしたが。)

    サイベルは「愛も憎しみも知識としてしか知らなかった」
    というご指摘には、目を開かれた思いがしました。
    サイベルの判断も、その人となりを表していたのですね。
     

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