著 者:たつみや章
出版社:講談社
出版日:2000年1月28日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)
「月神の統べる森で」に続くシリーズ2冊目。前回、縄文のムラと弥生のクニの敵同士として出会い、心のわだかまりがすっかり晴れたとは言えないまでも、「次に会う時は友に」と別れたポイシュマとワカヒコの2人の少年のその後を描く。
少年たちを待っていたのは、大人の理屈の世界と言える。心根の真っ直ぐな縄文のムラの人々でさえ、災いを背負うと言われる星の息子であるポイシュマをすぐに受け入れることはできない。少年がそこを出て行けば、1人で生きてはいけないだろうことは分かっていてもだ。
弥生のクニに帰還したワカヒコの運命はさらに厳しいものだった。ムラとは違って身分制度があるクニでは、人々は謀(はかりごと)を覚えてしまった。女王ともいえるヒメカの甥という身分は、ワカヒコの安全を保証するどころか、謀略の対象となる原因となってしまった。
稲作を覚え、周囲を柵で囲って定住する弥生文化は、その前の狩猟採集生活の縄文文化より優れていると考えられがちだ。技術の観点からは断絶がないかぎり、前の時代の上に積み重ねていける以上、後の時代のものが前の時代のものより優れていると言うこともできる。しかし、社会制度は新しいものが必ず優れているとは言えない。
「所有」の概念が身分制度を作ったとはよく指摘されるが、身分制度が謀を生み出したとも言えるのではないか、と思う。前作では自然や動物の神性を見ることができるかどうかという違いであったが、本書では悪しき概念(謀、裏切りなど)までが弥生のクニでは生まれている。その差がポイシュマを救いワカヒコには厳しく覆いかかる。
あえて理屈を付ければこんな感想が言えるが、運命を背負った2人の少年の物語が、起伏にとんだストーリーで進む。それだけを楽しんで読む方が素直な読み方かもしれない。
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