著 者:川上未映子
出版社:講談社
出版日:2009年9月1日 第1刷発行 10月1日 第3刷発行
評 価:☆☆(説明)
先日の「神去なあなあ日常」に続いて本書も2010年本屋大賞ノミネート作品。それから紀伊国屋書店の「キノベス’09」の第1位。大変高い評価を得ている本だ。でも、私は本書を楽しめなかった。他の人に薦めようとも思わない(☆2つなのはそのため、作品の出来が悪いという意味ではない)。
本屋大賞もキノベスも、作品の芸術性や完成度を評価するのではなく、オススメの本を選ぶ賞だ。その意味では私は、この2つの賞の選考を行った方々とは意見が異なることになる。
主人公は、中学生の僕。斜視のため(と本人は思っている)に、同じクラスの二ノ宮や百瀬らに暴力を含む酷い「いじめ」にあっている。その彼に同じクラスのコジマという少女が「わたしたちは仲間です」という手紙を送ってくる。彼女も日常的に「いじめ」にあっていた。
二人は同じ立場にある者同士として、手紙の交換や会話を重ねていく。途中で僕と百瀬の会話があるのだが、2人の考え方の間には埋まらない溝がある。それは当たり前のことなのだが、僕とコジマの間にも「いじめ」についての微妙に違う捉え方があった。僕とコジマと百瀬、三様の考え方の衝突、いやすれ違いが、この問題の閉塞感、無力感を際立たせる。
ネット上の本書についての感想に目を転じると、絶賛も含めて好意的な評価がある反面、切り捨てるかのような酷評も目にする。意見の相違は、この本には「素晴らしいことが書いてある」と思う人と「酷いことが書いてある」と思う人の間で生まれているようだ。本書の題材がとてもセンシティブな問題だから、感じ方が大きく振れてしまうのだろう。
そして私は、ちょっと卑怯かもしれないけれど、そのどちらにもくみしない。本書は素晴らしくもなく酷くもない。ただ本書では楽しめない。それは、私が子を持つ親であって、子どもが理不尽なつらい目にあう話を楽しめないからだ。「いじめ」は確かに現実に存在しているし、それを小説の形で表現するのも良いが、それなら救いかせめて展望を描いて欲しかった。心地よい最終章がそれだという言う意見もあろうが、私は違うと思う。僕もコジマも二ノ宮も百瀬も人生はまだ長い。
この本は、本よみうり堂「書店員のオススメ読書日記」でも紹介されています。
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こんにちは、
キノベス1位本屋大賞での下馬評も高い『ヘヴン』
本屋大賞ノミネート作の中で一番最後に読了した作品になりました。
期待が大きすぎたせいか読み終わったあとに本屋大賞を獲るにはちょっと違うかなと違和感を感じました。
すごく哲学的な小説だと思ったのでもう一度読んでみました。
コジマの世界と僕の世界、二人の悲しいほど痛々しい友情。
百瀬の論理は詭弁だと思いながらも納得させられそうになる。
誰かに薦めようとも思わないし救いもないし楽しむこともできないし共感できる部分も少ないとけれどそれでもこの小説は傑作だとは思う。
banchiさん、コメントありがとうございます。
私も、これはちょっとスゴイ小説だな、と思います。傑作と言ってもいいです。
「哲学的」だと感じられたとすれば、きっと正解ですね。
「情熱大陸」によると、著者は哲学が好きで今も日大の哲学の研究室に出入りして
いるそうです。そういう経験が作品に反映されているのでしょう。
コジマや百瀬のセリフには、哲学的なバックボーンが感じられますし。
この本は面白いよ、という風に勧めたくないだとか、
この本を読んで考えを共有したくないという意見には完全に同意です。
しかしただ単に物語の動向を見守るような読み方をしていては、
良い評価をこの本に対してつけられないとも思います。
百瀬の考え方についても 「良い」「悪い」
というような一概的な見方で済むとも到底思えません。
しかし、百瀬やコジマの思考や心に触れた主人公は、
それを無意識の下、自分を形成していく糧にしていくだろうと感じます。
何に対しても冷めた目で見てしまうような、
今の若者の潜在意識をうまく表した異例の本であり、傑作です。
mmmさん、コメントありがとうございます。
私も、この本は異例の傑作だということに異論はありません。
確かに、 物語の動向を見守るような読み方では、理不尽ないじめが
浮き上がってしまって、良い評価は付けられないでしょうね。
きっと、もっと登場人物の内面に寄り添うなり共感するなりすると
違った評価ができるのでしょう。