著 者:伊坂幸太郎
出版社:講談社
出版日:2011年10月14日 第1刷発行 10月21日 第2刷発行
評 価:☆☆☆(説明)
本書は、3年前に出版された単行本を文庫化したもの。単行本は2年半前に読んだ(その時のレビュー記事はこちら)。文庫化に際して行われた著者のインタビュー「文庫版「モダンタイムス」の秘密」を読み、大幅な改稿が行われていること、物語の「真相」を変えていること、著者は改稿でベストの形になったと確信していることを知り、文庫版も読んでみることにした。
「大幅な改稿」ではあるけれども、物語のあらすじは変わらない。主人公はシステムエンジニアの渡辺。物語の冒頭は、渡辺が拷問を受けるシーン。その拷問の影には他人が羨む美人の妻。本書は初出が漫画雑誌への連載なので、恐らくその当時のままに、初っ端から突っ走り気味に始まる。
その後の、先輩エンジニアの失踪、その先輩が残したヒントを基にした謎解き、渡辺自身が被った暴漢の襲撃、謎の団体である「安藤商会」との接触などの様々なエピソードも、ほぼ単行本と同じように積み重ねられる
本書自体の感想の前に、単行本との相違について2つ。(支障のないように、上に紹介したインタビューの範囲で)1つめは「アリは賢くない。アリのコロニーは賢い」という言葉が、文庫版では強調されて、物語のキーワードになっていること。単行本でもアリのコロニーへの言及はあるのだけれど、文庫版のような強調はなかった。
2つめは、過去のある事件の「真相」が変わっていること。渡辺が巻き込まれる形で近づいていくその事件の「真相」が、単行本と文庫版では違っている。私の感触では、この変更によって「真相」が、明らかになるどころか、より混迷を深めたと思う。私が見聞きした中に「単行本であやふやだった真相が、文庫版では明らかになっている」という捉え方をしている人がいるけれど、それは違っている。
この2つの相違を踏まえて、本書の感想を言うと「まぁまぁかな」だ。勿体付けておいてあやふやな表現で申し訳ない。けれど「ベストの形になった」と言われて膨らんだ期待が、しぼんて腑抜けた感想になってしまった。
変更点の1の「アリのコロニー」はとても良かった。変更点の2の「真相の変更」は功罪半ばした。「混迷を深めた」こと自体は、著者がテーマとして描く「社会を覆う巨大なシステム」の底知れなさが増して良かったのだけれど、その変更を物語に馴染ませるための無理を、あちこちで感じた。
単行本では多くの謎が残っていて、それに少なからず不満を感じた。だから、文庫化で変更されたという「真相」を、(「過去の事件の」ではなく)この物語の「真相」のことだと勘違いしていたこともあって、その謎が明らかになって、パズルがピッタリはまるような「スッキリ」を思って、期待を膨らませてしまったのだ。
つまり私自身が、「単行本であやふやだった真相が、文庫版では明らかになっている」という捉え方をしたクチだったわけだ。まぁ、これは全面的に私の勝手な思い込みだったわけだけれども。
コンプリート継続中!(単行本として出版されたアンソロジー以外の作品)
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ブリックス株式会社
ブリックス株式会社さま、コメントありがとうございます。
ただ、この「モダンタイムス」の記事との関連がわかりません。
もし、宣伝目的でコメントをされているのでしたら、今後は
ご遠慮いただきたく、お願いいたします。
読んでみたくなりました・・・。
みみ~さん、コメントありがとうございます。
ぜひ読んで、感想を聞かせてください。
この本の前か後に、これより50年前の話である「魔王」
という作品も読まれるといいと思いますよ。