著 者:池上永一
出版社:角川書店
出版日:2010年1月25日 初版発行
評 価:☆☆☆(説明)
本好きのためのSNS「本カフェ」の読書会の5月の指定図書。
仲間由紀恵さん主演でNHKでドラマ化された(現在放送中のNHK総合では来週最終回)「テンペスト」の原作の著者のデビュー作。第6回日本ファンタジーノベル大賞受賞作。
舞台は著者の出身地の沖縄・石垣島。主人公は19歳の綾乃。高校を卒業後、進学するでもなく就職するでもなく、ダラダラと日がな一日暇に暮らしている。することと言えば、道沿いにあるガジュマルの樹の木陰での、86歳になるオージャーガンマー(大謝さんちの次女という意味)ばあさんとのおしゃべりぐらい。日本的感覚で言えば、ニートの不良娘だ。
「日本的感覚」とわざわざ書いたのは、本書は「沖縄人(ウチナンチュー)」「島人(シマンチュ)」の物語で、「日本人(ヤマトンチュー)」の物語ではないからだ。そして「島人」の感覚では、「勤勉」とか「真面目」とかを唱えるのは一種のタブーなのだ。
しかし、その「島人」の感覚でさえ、綾乃は相当の変わり者。夢枕に立った神様にさえ、ユタ(巫女)になれと言われて、「ターガヒーガプッ(誰がやるかよ)」と返す。島の巫女は「(綾乃たちのように)あんな堕落した人生を送ることになるよ。」と言って、人々の行いを糾すぐらいだ。
こんな綾乃の数々の不道徳・不謹慎な行いが、なぜか微笑ましい。それは、綾乃の心根が真っ直ぐだということが分かるからだろう。あるいは、心の奥では「できるならこんな風に振る舞ってみたい」と思っているからかもしれない。
この物語では、暴力やセックスなどに対する様々なモラルが、ものすごく緩い。たぶん「島人」の感覚をデフォルメした世界観なのだろう。「モラルがものすごく緩い世界観のファンタジー」って斬新だと思う。
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これ、読み終わった後が凄い爽快だった記憶があります。面白いってわけじゃなかったんですが、綺麗な喪失感を味わえたので途中で読み捨てないで良かったなぁ、と。
>「モラルがものすごく緩い世界観のファンタジー」って斬新だと思う。
そういえば、ありそうで無いですよね。さらっと死ぬことはあっても、緩いのは概して恐い作品になっている気がしますね。
Madeskiさん、コメントありがとうございます。
綾乃たちの奇矯な言動を面白く思いながらも、物語がどこへ向かっているのか
分からないところがあるので、途中で読み捨ててしまう人もいらしゃるでしょうね。
「読み捨てないでよかったなぁ」というお気持ち、私も分かります。
ファンタジーで、簡単に人を殺してしまうとか、暴力やセックスに対するモラルが、
私たちと違うものは、考えてみればけっこうありますね。というか、多いですね。
ただ、それはモラルが「緩い」というより、「荒廃した」という感じでしょうか。