「象の消滅」短篇選集

著 者:村上春樹
出版社:新潮社
出版日:2005年3月30日発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 1980年~91年に書かれた短編を1993年に米国クノップ社が短篇集として出版した。本書はその本のセレクション、順番で収録してある。10年以上前に米国で出版された20年前の作品を、どうして日本で出し直す必要があるのかは疑問。「面白そうな企画だな」という以上には深い意味もないのかもしれない。
 という、皮肉な考えとは裏腹にけっこう楽しめた。本棚を改めて探ると、収録作品の大部分は見つかった。つまり、以前に読んでいたはずなのに、とても面白く読んだ。まぁ、読んだのは10年以上も前だから、単に忘れていただけなのだけれど、作品が魅力的であった証拠とも言えるのではないか。

 こうやって、17編もの短篇を通読してみると、いくつかの傾向というか、分類が見えてくる。現在の村上作品の特徴とも言える、仮想と現実がない交ぜになった世界観のもの(緑色の獣、踊る小人、そして表題の象の消滅、など)、あり得ないとは言えないけれど非日常的な物語(パン屋再襲撃、納屋を焼く、など)、若者を青臭いぐらいに素直に描くもの(4月のある朝に・・・・・・、午後の芝生、など)、人間心理を鋭く突くもの(沈黙、など)...。
 ここまで書いて、ある考えに行き当たった。これは、日本の読者に向けた村上作品のトレーニング用なのではないか。最近の村上作品は、独特の世界観が強すぎて、ついていけない人もいる。しかし、短篇で青春ものなら入って行きやすいだろう。この短篇集の、この作品はよくわからないけど、これは良かった、という読み方もできる。
 米国で出版する際には、多分に村上春樹を紹介する目的をこの短篇集に持たせていたに違いない。それをそれを逆輸入で日本向けにやったので。それが、10年以上前に米国で出版された本を日本で出し直す理由なのかもしれない。

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