著 者:ジュディ・ダットン 訳:横山啓明
出版社:文藝春秋
出版日:2012年3月25日 第1刷
評 価:☆☆☆☆(説明)
元マイクロソフト社長の成毛眞さんが代表を務める書評サイト「HONZ」で、昨年の年間ベスト第1位となった本。本書は、インテル国際学生科学フェア(ISEF)という高校生の科学オリンピックの出場者を取材したノンフィクションだ。
米国ではサイエンス・フェアと呼ばれる、地域や州ごとなどで開催される、中高生の自由研究の発表会が盛んなのだそうだ。日本で似たものを探せば「夏休みの自由研究」のコンクール。ISEFは、そのサイエンス・フェアの頂点に位置することになる。
しかしISEFに出品される研究は、「夏休みの自由研究」と聞いて、多くの人が思い浮かべるものとは質的に異なる。例えば、14歳のテイラーが出品したのは「自作の核融合炉」!!!。驚きで呆然としてしまうが、さらに驚くべきことは、彼の出品が最優秀ではないことだ。
蜂群崩壊症候群というミツバチの大量死に関する研究、馬との触れ合いによる人間の心の治療の研究、音楽を使った自閉症の子供たちへの教育プログラムの開発、カーボンナノチューブの研究による新素材の開発。例を挙げるのはもう十分だと思う。彼らの研究はレベルや実用性において、大学や企業の研究室のそれと比べて遜色ない。いや、大きく凌駕しているものさえある。
「米国の天才」をこれでもかと紹介した本、別世界の話。ここまでの紹介では、そんな印象を持ったと思う。それは本書のほんの一部分で、多くを費やして記されているのは、彼がISEFに出品するまでの道のりだ。場合によっては2歳の頃から生い立ちを書き起こしている。
彼らが何故その研究をしているのか?それは彼らの人生と深い関わりがある。彼らの誰一人として、何不自由なく恵まれた暮らしをしてきたわけではない。多くは並み外れた逆境を跳ね返してきたのだ。本人と家族の踏ん張りと、必要な時の必要な出会いがあって、この偉業は為されている。そこには感動と、「もしかしたら私(の子ども)も」と思えるものがある。
最後に。ISEFは50以上の国から1500人もの参加がある。もちろん日本からの参加もある。巻末にISEF2011に参加し「地球科学部門」の第3位ほかを受賞した、千葉の田中里桜さんの「特別寄稿」が収録されている。「日本ではどうなんだろう?」という気がかりは、これで幾分晴れた。
※さらに嬉しいニュースもある。5月20日にISEF2013で、里桜さんの弟の尭さんが、同部門の最優秀賞を受賞したそうだ。
日本代表生徒初の快挙! 2013 年インテル国際学生科学技術フェアで部門最優秀賞を受賞
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「日本ではどうなんだろう?」という気がかりについて。
本を読んでいる間中「日本にもこんな催しがあればいいのに」「ないから天才が育たないんだ」という言う思いがずっとしていました。だから、書評のまとめも「日本でもこのような催しが開催されることを願う」というようなことを書こうと思っていました。
ところが、巻末に日本からもISEFへの参加者があること、讀賣新聞社主催の「日本学生科学賞」と、朝日新聞社主催の「高校生科学技術チャレンジ」が、国内の「予選」になっていることが、書かれていました。つまり日本にも「このような催し」はあるのです。
特に「日本学生科学賞」は1957年の創設です。私が生まれる前からあるのです。それでも米国と日本では何かが違う。本書で登場した高校生たちが、日本に住んでいたら参加したか?と考えると、そうならない気がします。同じような催しがあることが分かったからこそ、違いが浮かび上がってきました。
まず1点目。「サイエンス・フェア」の数が違う。何個という数値的なことは分かりませんが、米国では州ごとはもちろん、もっと小さな地域単位で「サイエンス・フェア」が催されています。それだけ多くの機会があることになります。
2点目は、賞金や特典の違い。ISEFの賞金総額は400万ドルという高額です。しかし、個々の受賞者に贈られる賞金は「日本学生科学賞」と、そう変わりはありません。違うのは米国では特典として「奨学金」が付くことが多いことです。
例えば「州内の好きな大学で学べる」「在学中の学費を賄える」奨学金が与えられる。一時的な「賞金」とは違う意味が「奨学金」にはあります。貧しい家庭環境の中高生が、必死になって研究に打ち込むのには、自分の人生を切り拓く道が見えているからなんです。
そもそも私たちは、子どもたちの「スポーツ」と同じぐらい、「科学」に関心を向けているでしょうか?突然、身の回りの話になりますが、私の街の中学校には「科学部」に類するものがありません。運動部は一通りありますが、文化部は「吹奏楽」「合唱」、「美術」はあったりなかったりです。
運動が苦手で芸術に得意でない(関心がない)生徒は行き場がありません。このことがずっと気になっていました。何とかしてあげたい。この本を読んで、その気持ちを新たにしました。