アンティキテラ 古代ギリシアのコンピュータ

書影

著 者:ジョー・マーチャント 訳:木村博江
出版社:文藝春秋
出版日:2009年5月15日 第1刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 本書は「アンティキテラの機械」と呼ばれる、ギリシアの小島「アンティキテラ島」の沿岸の海底から引き上げられた、ブロンズ製の機械にまつわるドキュメンタリー。私は、この機械の事を昨年末のNHKの番組「古代ギリシャ 驚異の天文コンピューター」で知って、すごく魅きつけられた。そして、私が入っているSNS「本カフェ」のメンバーさんに、この本のことを教えてもらった。

 「アンティキテラの機械」のことをもう少し。1900年に海綿獲りのダイバーが、沈没船の積荷だと思われる、海底に散乱するたくさんのブロンズ像を見つける。その後、政府肝煎りの回収作業が行われ、この機械もブロンズや陶器などの美術品と共に引き上げられる。
 しばらく放置されていた、この腐蝕したブロンズと木の塊から、いくつもの歯車と古代ギリシャ文字が発見される。200ほどもの細かい歯が付いている大きな歯車。それにいくつもの歯車が精巧に組み合わされている。

 これは古代の時計、あるいは何かを計測するか計算する機械だ、と考えられた。しかし、それはあり得ないことだった。他の積荷などから、この機械は2000年は前のものだと推定されたが、我々の文明がこれだけの精巧な技術を獲得するのは、ヨーロッパの中世。1000年は後のことなのだ。

 驚きはその精巧な技術にだけではない。この機械が表しているものは、どうやら天体の運行のシミュレーションらしい。惑星の運行はもちろん、太陽と地球と月の位置関係の何十年周期の繰り返しや、日蝕月蝕が正確に表現されている。天動説の時代だから、観測から導き出したわけだけれど、その精密な観測と洞察力に驚く。

 私は「歯車」が大好きだ。回転数や力の方向を変える正確無比な動きが美しいと思う。変なヤツだと思わないで欲しい。なぜなら、そういう人は少なくないようなのだ。本書に登場するのは、この機械に魅了された数々の科学者たち。その記録を、人間臭い部分を含めて綴っている。

 X線による撮影技術やコンピュータによる画像処理の発達によって、現在ではこの機械についての解明がかなり進んでいる。ただ本書は、この機械の解説ではなく、この機械と科学者たちの100年に及ぶドキュメンタリーを主軸にしたものだ。私としては、この機械の動作や機能について、もう少し詳しく丁寧な解説が欲しかったが、それは別の機会を期待することにする。

(2013.7.29追記)
「アンティキテラの機械」の動きを再現したCGを見つけました。見とれてしまいました。
YOUTUBE「Virtual Reconstruction of the Antikythera Mechanism」

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