1E.阿部智里(八咫烏)

追憶の烏

書影

著 者:阿部智里
出版社:文藝春秋
出版日:2021年8月25日 第1刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 シリーズの馴染みの登場人物が退場して、新しいキャラクターが登場、先が楽しみになった本。

 累計170万部の「八咫烏」シリーズの第二部の2巻目。1巻目は「楽園の烏」で、第一部の終わりから20年が経っていた。本書はその20年間の空白を埋める物語だった。

 主人公は雪哉。皇帝が皇太子の頃からの側近の武官。20年後を描いた前巻で彼は、博陸候雪斎と名乗ってこの八咫烏の世界である「山内」を取り仕切っている。如何にしてそのような存在に...というお話。

 物語は幸せそうな空気をまとって始まる。皇帝の一人娘の姫宮に雪哉はたいそう慕われている。雪哉もそれに応えて、公式行事での初めての大役を務める姫宮の側に付き従ったり、地方の花祭りに出掛けた際には、人知れぬ桜スポットにお忍びで連れ出したりもする。

 しかししかし。第一章を幸せそうに終えた第二章で物語は急降下する。重要人物を見舞った不測の事態。後に明らかになった仔細は壮絶なものだった。これによって波乱の舞台が幕開け、物語は二転三転と大きく振幅を繰り返して、雪哉と姫宮もそれに翻弄される。

 期待どおりに裏切られた。このシリーズの第一部は新しい巻が出るたびに、それまでとは趣向の違う物語になっていたりして、毎回「そう来たか!」と感じることがあった。本書での「重要人物の不測の事態」は予想外で(よくよく思い出せば前巻にヒントはあったのだけれど)、「え!?」と思った。

 そんなわけで次の巻が何を描くのか予想は難しいけれど、本書の終章には予告編めいたエピソードが描かれている。まだまだ楽しませてもらえそうだ。

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烏百花 白百合の章

書影

著 者:阿部智里
出版社:文藝春秋
出版日:2021年4月25日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「あの人の過去にはこんなことが!」という驚きを感じた本。

 八咫烏シリーズの外伝。3年前に刊行された「烏百花 蛍の章」に続く短編集。30~40ページほどの短編8編を収録。

 「かれのおとない」は、北領の村の娘みよしが主人公。武人の養成所である勁草院にいる兄とその友人の雪哉との交流。「ふゆのことら」は、北領の郷長家の三男の市柳が主人公。仲間と徒党を組んで遊びまわっていた市柳の前に隣の郷長家の雪哉が現れる。「ちはやのたんまり」の主人公は、西領を治める西家の御曹司の明留。友人の千早の妹の縁談のために奔走する。

 「あきのあやぎぬ」は、西家に迎え入れられた環が主人公。ゆくゆくは次期当主の側室にということだけれど、その顕彦には17人の側室がいた。「おにびさく」は、西領に住む鬼火灯籠職人の登喜司が主人公。師匠である養父は突出した技量をもつ西家のお抱えであったが、登喜司は遠く及ばない。「なつのゆうばえ」の主人公は、南家の姫の夕蝉。才気あふれる姫に育っていたが、父と母が相次いで亡くなってしまう。

 「はるのとこやみ」は、東領に住む竜笛の楽士である伶が主人公。技量は十分ながら師匠には「お前の音は、どうにも濁っている」と言われる。伶と弟の倫の前に長琴の名手である姫、浮雲が現れる。「きんかんをにる」の主人公は、金烏陛下である奈月彦。愛らしく育った6歳の愛娘との微笑ましい時間の裏で不穏な出来事も。

 このシリーズの舞台は、八咫烏が人間の姿になって暮らしている世界。東西南北の4領に分かれていて、それぞれ大貴族が治めている。東領は楽人を輩出、西領は職人を多く抱え、南領は商売で栄え、北領は武人の国。改めて収録作品を見ると、それぞれの領地の特徴がよく分かる物語がバランスよく配置されている。

 登場人物は本編の主要メンバーも多いけれど、脇役や本編では全く登場しない人もいる。私としては脇役に焦点を当てた物語がとても楽めた。特に「大紫の御前」の物語は意表を突かれた。本編を読んでいる人におススメ。

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楽園の烏

書影

著 者:阿部智里
出版社:文藝春秋
出版日:2020年9月5日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「誰の本心も分からない、謎だらけだなこれは」と思った本。

 著者のデビュー作「烏に単は似合わない」から続く「八咫烏」シリーズが累計150万部と大きな反響を呼びながら、第6巻「弥栄の烏」で、第一部が完結。本書は、それから3年を経て第二部の幕開け。

 主人公は安原はじめ。30代。資産家の養子。養父から山を相続した。これから100年は固定資産税を払えるだけの維持費とともに。ただし「どうしてこの山を売ってはならないのか分からない限り、売ってはいけない。」という奇妙な条件が付いていた。

 このシリーズは、人の形に転身することができる八咫烏たちが暮らす「山内」と呼ばれる世界が舞台。そして「山内」は、ある山の神様を祀る「神域」を通して、現代の日本とつながっている。ということが、5巻と6巻で明らかになっている。はじめが相続した山は、その神域がある山だ。でも当然そのことは、はじめは知らない。

 相続後にまもなく「怖気をふるうような美女」が、はじめの元に訪れる。「あの山の秘密を教える」と言う彼女に連れられてその山に、さらには木箱に身を隠して神域に侵入し...とテンポよく進んで、舞台は現代日本から山内の世界に移り、第一部と接続される。

 そこではじめの前に現れたのは「雪斎」と名乗る男。第一部で、皇太子である若宮の側近の武官だった雪哉だ。どうやら第一部の終わりからは20年経っていて、山内の世界はこの雪斎が取り仕切っているらしい。庶民から貴族まで、口々に雪斎とその善政を褒めたたえる。

 安原はじめが、養父から受けた生前贈与の金で暮らす、もう怠惰でどうしようもないヤツとして登場するのだけど、これが中々の切れ者。山内の世界を見て回る方々で、彼が問いかける「あんたらにとって、ここは楽園か?」という質問が、見えない覆いを切り裂こうとする刃物のようだ。

 その覆いの向こうに、山内の複雑な闘争の存在が垣間見える。波乱の前兆。

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烏百花 蛍の章

書影

著 者:阿部智里
出版社:文藝春秋
出版日:2017年7月30日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 八咫烏シリーズの外伝。このシリーズは、八咫烏が、私たちと同じ人間の形になって暮らしている、という世界で、平安京にも似たその宮廷が舞台。本書には6編の短編を収録。6編を簡単に紹介する。

 「しのぶひと」は、若宮妃付きの真赭の薄と、その弟の明留、若宮の護衛の澄尾の物語。真赭の薄の縁談に絡んで、それぞれの想いが表出する。「すみのさくら」は、若宮妃の浜木綿の物語。身分をはく奪され「墨丸」と呼ばれていた子どもの頃の回想。「まつばちりて」は、下層の遊郭で生まれながら、その才によって宮廷務めに取り立てられた少女、松韻の悲劇的な物語。

 「ふゆきにおもう」は、貴族の娘の冬木と、彼女に仕えていた梓の物語。二人の行く道は一旦分かれ再び交わる。若宮の側近の雪哉の出生について語られる。「ゆきやのせみ」若宮とその側近の雪哉の物語。若宮の気ままな行動に振り回される雪哉。「わらうひと」冒頭の「しのぶひと」と対をなす真赭の薄と澄尾の物語。盲目の少女、結についても語られる。

 6巻ある本編が「后選びの宮廷物語」「皇位継承を巡る陰謀」「外界からの魔物の侵入」「全寮制の男子の成長物語」「異界に迷い込んだ女子高生」「種族間の対決」と、その振り幅の大きさは他に類を見ない。そのためもあって「主要な登場人物」も多いのだけれど、それぞれにきちんと性格付けがされている。本書は、その一人一人の背景にある物語を描く。

 また、カバーに「語られなかったあの人たちの物語」と書いてある。細かいことを言うようだけれど「語られなかったあの人の」「物語」と、「語られなかった」「あの人の物語」と両義になっている。松韻と冬木と梓は、本編ではほとんど、あるいは全く語られていない。その他は、本編で多く語られているが、本書で人物造形が補強され、中にはとても魅力的になった人もいる。

 外伝なので、本編を読んでから読んだ方がいい。また、本編を読み通した人は、本書も読んだ方がいいと思う。というか、読まずに済ませることなんてできないだろう。

 「蛍の章」ということは、これからまだ外伝が出るということだろう。期待が膨らむ。

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弥栄の烏

書影

著 者:阿部智里
出版社:文藝春秋
出版日:2017年7月30日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

  八咫烏シリーズの第6弾。これにて第一部の完結。 このシリーズの舞台は、八咫烏が、私たちと同じ人間の形になって暮らす「山内」と呼ばれる世界。ところが、前作の「玉依姫」はいきなり1995年の日本が舞台となった。そして今回は再び「山内」に物語が戻ってきた。

 こんな感じで舞台は大きく振幅するのだけれど、前作と今回は背中合わせに密接した構成になっている。前作で描かれた東京の女子高校生の志帆の物語の同じ時間に、山内の八咫烏たちには何が起きていたか?を描く。

 「大猿」の襲撃を受けた山内は戦々恐々としていた。そこに、その「大猿」の頭が堂々と禁門を通って現れる。厳戒態勢にあった八咫烏たちは、一斉に攻撃するが、矢も刃も効かない。そして大猿は八咫烏の若宮の奈月彦にこう言う「久しぶりだようなぁ、八咫烏の長よ」

 大猿は奈月彦に「山神」の居る「神域」に共に来るように言い、奈月彦はそれを受ける。この後は、前作で志帆の視点で描かれた物語を、奈月彦の視点で描きなおすと同時に、山内の八咫烏たちの動静を語る。物語に厚みが増す。

 色々な謎に答えが出て、色々な出来事に決着が着く。冒頭の繰り返しになるけれど、これにて第一部の完結。ただし、すべての答えが出て、すべての決着が着いたわけではない。私としては「描き切った」感はあまり感じなかった。まぁ、第二部が予告されているのだから当然だ。

 八咫烏シリーズ公式Twitterによると、第二部で終了の予定。つまりここで折り返し。第1巻「烏に単は似合わない」から「ずい分遠くまで来たけれどまだ半分か」と思う一方、「もっと長く読んでいたい」とも思う。来年中には第二部をスタート、が目標とか。ぜひ目標を達成してほしい。

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玉依姫

書影

著 者:阿部智里
出版社:文藝春秋
出版日:2016年7月20日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

  八咫烏シリーズの第5弾。このシリーズは新しい巻が出るたびに、それまでとは趣向の違う物語になっていて、毎回「そう来たか!」と思ったけれど、今回もそうだった。

 このシリーズの舞台は、八咫烏が、私たちと同じ人間の形になって暮らし、雅やかな感じが平安京を連想させる世界だった。「だった」と過去形なのは、本書は違うからだ。本書の舞台はなんと1995年の日本だ。主人公は東京に住む女子高校生の志帆だ。八咫烏からも平安京からも、ずい分と遠い。

 とは言え、当然ながら、志帆には八咫烏とのつながりがある。志帆の祖母の出身地の山内村には「神様のいる山」がある。その山の神域を挟んで私たちの世界と八咫烏の世界はつながっているらしい。志帆は、その山の神に捧げる「御供」にされてしまったのだ。

 志帆は、いきなり命の危機に瀕するわけだけれど、主人公でもあり、それを切り抜ける。その先に待っていたものは、なんと八咫烏の若宮と大猿、そしてさらに過酷な運命だった。高校生の志帆には過酷すぎるけれど、彼女はその運命に立ち向かう。本人の意思なのか、もっと大きなものの意思が働いたのか、それは分からないけれど。

 もう1回言うけれど、現代の少女の登場に「そう来たか!」という感じ。まぁどこか頭の片隅に予感はあった。もしかしたら、解説かインタビュー記事に書いてあったのかもしれない。そうでなければ「十二国記」からの連想だろう。第3弾の「黄金の烏」のレビュー記事にも書いたけれど、このシリーズには「十二国記」と重なる世界観を感じる。

 「女子高校生」「訳も分からず異世界に連れてこられる」とくれば、十二国記の陽子を思い出す。運命に立ち向かう、というところも同じだ。今後の活躍が期待される。

 念のため。十二国記との類似について書いたけれど、著者のオリジナリティに対して疑問を呈しているのではない。世の中にたくさんの物語があるので、「何かに似ている」ことは、ある意味で不可避なことだ。ただシリーズを通して読むと、著者が描き出そうとしてるものが、オリジナリティの高いものであることを強く予感させる。

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空棺の烏

書影

著 者:阿部智里
出版社:文藝春秋
出版日:2017年6月10日 第1刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「烏に単は似合わない」「烏は主を選ばない」「黄金の烏」に続く、八咫烏シリーズの第4弾。出版界やファンタジー、ミステリーファンが注目するシリーズとなっている。

 八咫烏が、私たちと同じ人間の形になって暮らしている、という世界。平安京にも似たその宮廷を中心に、貴族政治が行われている。今回は、宗家の近衛隊の武官の養成所である「勁草院」が舞台。主人公は、勁草院に新たに入学してきた若者たち、茂丸、明留、千早、雪哉の4人が、章ごとに交代で務める。

 「勁草院」は男子のみの全寮制。同じ年頃の男子が集団で修行する。座学あり実技あり、貴族の子と平民の子が共に学ぶ。各所の説明で「ホグワーツ魔法魔術学校」に例えられることが多いようだけれど、間違えてはいないけれど、少し違和感もある。こちらは武官専門のエリート養成所だし、女子はいないから、もっと汗臭くてきな臭い。

 趣向としては青春モノ、学園モノ。出自の違いや属するグループの違いから、お互いに反目する場面もある。主人公4人が抱える事情も、ここに来た目的も違う。そうしたものを乗り越えて成長する。私は、こういうのは嫌いじゃない。

 著者を「すごい」と思うのは、本書がそれ自体で面白い上に、この一見して趣向が違う話を(実は、全作がそれぞれ趣向が違うとも言えるけれど)、シリーズの中に取り入れて、しっかりとした位置付けが感じられることだ。前作までで、この世界を危うくする危機が描かれている。本書は、それから切り離されたような学園生活が描かれる。しかし、物語はきちんと本流へと戻っていく。あの4人は、今後、重要な役割を担うに違いない。

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黄金の烏

書影

著 者:阿部智里
出版社:文藝春秋
出版日:2015年6月10日 第1刷 2016年7月5日 第3刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「烏に単は似合わない」「烏は主を選ばない」に続く、八咫烏シリーズの第3弾。本書で物語が大きく動き出した感じだ。これまでの2巻は、それはそれで面白かったが、シリーズが描く物語としては序章、まだ何も始まってなかったことが分かる。

 八咫烏が、私たちと同じ人間の形になって暮らしている、という世界。平安京にも似たその宮廷が舞台。本書の主人公は前作「烏は主を選ばない」と同じで、地方貴族の家の少年の雪哉。前作での皇太子である若宮の側仕えを終えて帰郷していた。

 事の発端は、雪哉の故郷で起きた事件。人間でいうと「クスリでもやった」ように正気を失った八咫烏が、雪哉の目の前で女性と子どもを襲った。さらにこの事件の調査の途中で「大猿が村人たちを喰らい尽くして、集落をひとつ全滅させる」という凄惨な出来事が起きる。

 物語はこの後、舞台を中央の宮廷に移して、この2つの事件を追う。そこで展開される出来事は、この八咫烏が支配する世界の存在そのものを揺るがす深刻な問題へと行き着く。

 読んでいて「あぁこう来るのか!」と思った。著者がどのように考えておられるかはわからないけれど、小野不由美さんの「十二国記」と重なる世界観を感じる。この世界は、まだまだ広がりがある、まだまだ物語は発展する、そんな予感が充満している。

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烏は主を選ばない

書影

著 者:阿部智里
出版社:文藝春秋
出版日:2015年6月10日 第1刷 2016年7月25日 第11刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「烏に単は似合わない」の続編。いや「続編」という言い方は正確ではなくて、本書は前作と全く同じ時間に起きた別の出来事を描いた物語。著者はインタビューで、当初は前作と本書がひとつの物語だったことを明かしている。だから「続編」よりは「下巻」、いや「裏編(そんな言葉ないと思うけど)」とか「SideB」とかが適切な表現か。

 改めてシリーズを紹介すると、私たちと同じ人の形になっている八咫烏の世界、平安京に似た宮廷を舞台としたファンタジー・ミステリーだ。前作では、皇太子である若宮の后選びを舞台に、后候補となった4人の姫たちを描いた。

 そして本書の主人公は、若宮の近習となった少年の雪哉。雪哉の目を通して、前作でほとんど何も明かされなかった、若宮に起きた出来事が描かれる。「若宮の后選び」という時間を、后候補の姫たちの側から描いた前作と、若宮の側から描いた本書、2作でひとつの物語、というわけだ。

 とは言うものの、本書では「若宮の后選び」は、ほとんど描かれない。描かれているのは「后選び」どころではない、その身を危うくするような事件だ。若宮は、10年前の政変で兄を追い落として皇太子の座に就いた。その兄の一派が巻き返しを図ってきたのだ。

 面白かった。人気が出るのも頷ける。前作の美しい姫が4人も登場するキラキラした感じから一変、気を抜くと殺されてしまうようなハードボイルドな展開。信頼と裏切り。正義と悪。ジャンプのマンガのようでワクワクさせる。

 「ぼんくら次男」と呼ばれている雪哉と、「うつけ」扱いされている若宮。「解説」にも書いてあったが、物語の主要な登場人物で「ぼんくら」や「うつけ」として現れて、本当にそうだった試しはない。本当の姿が早々にチラっと見えるのも楽しい。

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烏に単は似合わない

書影

著 者:阿部智里
出版社:文藝春秋
出版日:2014年6月10日 第1刷 2016年6月5日 第14刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 本書は著者のデビュー作にして、2012年の松本清張賞受賞作。その後、年に1作のペースで続編が出て、先日、5作目となる「玉依姫」が出版された。今や「八咫烏シリーズ」という、出版界やファンタジー、ミステリーファンが注目するシリーズとなっている。

 シリーズの世界観はこんな感じ。八咫烏の一族が支配する世界。一族は族長である「金烏(きんう)」を擁する「宗家」と、東西南北に分かれた貴族の四家に分かれている。その四家は覇権を争い、宗家との結びつきを強めることによって、勢力の拡大を狙う。

 本書の舞台は、平安京に似た宮廷。皇太子の若宮の后選びが行われることになり、貴族の四家それぞれの娘が、后候補として宮廷に登殿してくる。自らの家の将来を背にした「姫たちの女の戦い」を、煌びやかに描く。

 「烏」と「煌びやか」がアンマッチな感じがするけれど、彼らは普段は「人形(ひとがた)」という人間の姿をしていて、事があれば「鳥形」となって飛翔することができる。そして姫たちは美女揃いだ(皇太子の后候補になるぐらいだから、まぁ当然だけれど)。しかも、姉御肌、妖艶、清楚、無邪気と、キャラ設定が各種取り揃えてある。

 主人公は四家の一つの「東家」の二の姫の「あせび」。疱瘡を患った姉の代わりとして宮廷に登殿してきた。代役であるため、后候補としての教育をほとんど受けていない「世間知らずの姫」。読者は彼女の目を通して物語を見ることになり、その「世間知らず」加減が読者の目線と合っていて、ちょうどいい塩梅になっている。

 源氏物語の昔から最近の韓国ドラマまで、「宮廷」は「女の戦い」にうってつけの舞台。本書もすべり出しは、四家に宗家も加わって女ばかりの諍いやら友情やらが描かれる(彼女たちが住まう「桜花宮」は男子禁制)。ただし、それだけでは終わらない。

 本書は「松本清張賞受賞作」。表紙イラストはライトノベル・ファンタジー風で、実際そのように始まるのだけれど、その実はミステリーだ。出来事の裏側には秘められた真実があり、後半にそれが明らかになる様は、探偵小説のようだった。

 「解説」に次作のことが少しだけ紹介されていた。本書だけでもなかなか面白いのだけれど、次作のことを知って俄然期待が膨らんだ。これは金鉱脈のようなシリーズを掘り当てたかもしれない。

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