著 者:重松清
出版社:新潮社
出版日:2007年7月20日初版
評 価:☆☆☆☆(説明)
この作家さんの本を読むのは初めてだ。このところ何人かの方の書評のブログを巡回していて、度々お目にかかったので、どんなお話を書かれるのだとうと気になっていた。どうも、人の心のひだを丁寧に描写される、心に沁み入る物語を書かれるらしいのだけれど。
それで、図書館の棚にあった比較的新しめの本書を手にとってみた。読んでみて、他の方が書かれている感想に合点がいった。そこには心の深いところに届く、そんな物語が綴られていた。
本書は8編からなる短編集。舞台は中学校。作品ごとに違う学校だけれど、そこには、色々な理由でひとりぼっちな子どもがいる。学校では一言も発せない女の子、教室に自分の居場所がない男の子、転校してきて学校に馴染めない男の子...
そして、8編通して登場する非常勤の国語教師、村内。彼は吃音者でカ行とタ行と濁音がなめらかに出てこない。だから授業はとても聞き取りにくい。彼を採用するなんて「非常勤講師はそんなに人手不足なのだろうか」とある生徒の感想にある。
しかし、彼はひとりぼっちの子どものそばに寄り添う。寄り添われている本人でさえ気が付かないほど、そっと寄り添う。そうすることで、その子はひとりぼっちではなくなり、何かに気付き、何かを乗り越えることができる。そして、村内先生は言う「間に合って良かった。」
あらすじを追うだけなら、同じような話は今までにも幾度も聞いただろう。しかし、本書がありきたりの話とは違うのは、ひとりぼっちの子どもたちを丁寧に描いていることだ。その子がなぜそうなったのか?子どもを取り巻く様々な出来事が、その子の心に傷を残す。
正直、読んでいてつらく感じたこともあった。心身どちらかが疲れていたら読めないだろう。私が特につらかったのは、父親が交通事故を起こした女の子の話だ。事故で父親を亡くしたのではない。父親が事故の加害者として他人を死なせてしまったのだ。10年以上前の出来事が、彼女にそして家族の心に影を落とす。そう、事件の後にも人は生きていかねばならないのだ。
村内先生が吃音者なのは、著者自身の経験と無縁ではないだろう。しかし、表紙に小さな字で書いてある My teacher cannot speak well. So when he speaks, he says something important. という英文がその意味を端的に表している。
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