34.加納朋子

モノレールねこ

著 者:加納朋子
出版社:文藝春秋
出版日:2006年11月30日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 やさしい雰囲気の中で、ちょっと不思議で時に切ない話を書く著者。本書は文芸誌などの様々な媒体に書かれた短編を8編収めた短篇集。著者の作品で「ななつのこ」や「レイン・レインボウ」、「ささらさや」などは、短編同士にもつながりがある「連作短篇集」だが、本書は(ちょっと残念だが)それぞれが完全に独立した物語。

 いろいろな加納作品が楽しめる、という意味ではおトクな本。不思議系の「パズルの中の犬」と「シンデレラのお城」。どうしようもなくダメな肉親を描いた「マイ・フーリッシュ・アンクル」と「ポトスの樹」。ほろっとさせる「いい話」系の「セイムタイム・ネクストイヤー」「ちょうちょう」、さらにそこに笑いを振りかけた「バルタン最後の日」。そしてオチが巧みな表題作「モノレールねこ」
 「各種取り揃えました」という感じの短篇集だけれど、多くの収録作品に通じるテーマは「家族」。それは「家族を欠いた」ことで始まる物語であったり、「家族の過去」に触れる出来事であったり、「偽りの家族」の物語であったりする。

 一番好きな作品を1編だけ紹介する。それは「バルタン最後の日」。ディズニーランドに行くと、しばらくは粗食を覚悟せねばならないという、慎ましい暮らしをしている家族。その家の少年フータが釣ってきたザリガニの「バルタン」が主人公。
 悪意はないのだがザリガニの飼い方を知らない家族。「バルタン」は家族の不注意による生命の危機を幾度も乗り越える。そして、家族はなぜか「バルタン」にだけ思いを吐露する。みんな何かを心に抱えている。家族を想うあまりそれが言えないなんて..。「バルタン」もいいヤツなんだけれど、私は「お母さん」に泣けた。

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てるてるあした

著 者:加納朋子
出版社:幻冬舎
出版日:2005年5月25日
評 価:☆☆☆(説明)

 「ささらさや」の続編、「佐々良」という同じ街を舞台とした、1人の少女が経験した半年余りの物語。登場人物の街の住人たちは、前作と同じ面々。「ささらさや」の主人公のサヤも登場する。あれからどれだけ経ったのか分からないが、サヤの子のユウ坊がまだ赤ん坊のままだから、それほど月日は流れていないようだ。

 今回の主人公、照代は15歳、志望校に合格し、晴れて入学式を迎えるはずだった4月に、夜逃げするハメに陥って、遠い親戚である久代を訪ねて一人佐々良に来た。15歳の少女には少し過酷な境遇だ。子どもと言うには成長しすぎているが、一人生きていくのは難しい、まだ大人の保護が必要な年ごろ。
 この街では不思議なことが起きる。前作でサヤの死別した夫が、サヤを助けるために度々現れたような不思議なことが。今回も、照代の周辺には不思議がいっぱいだ。少女の幽霊が現れたり、発信元不明のメールが届いたり。しかし、幽霊が出てくるからと言って怪談ではない。少しホッとする物語がやわらかい文章で展開する。

 この物語は、照代の心の再生物語だ。照代は羽振りの好い家庭で育った。だが夜逃げをしなければならなくなったのは、まっとうな金銭感覚がない浪費家の両親のせいだ。多重債務によって実現した羽振りの良さだったのだ。
 カネやモノは欲しがるだけ与えていたが、愛情は十分に注がなかったようだ。少なくとも、照代自身はそう感じていた。そのためか、やさしくまっすぐなサヤから受ける言葉や親切さえ、嫌悪してしまうほど心がササクレていた。
 しかし、久代やサヤ、そしてクセのある佐々良の街の人々から、たくさんの親切を受けることで、照代の心も穏やかさを取り戻していく。

 このように書いてしまうと、ひどく一本調子でありがちな話のように思える。しかし、この著者は日常に潜むミステリーを書く人だ。ちょっとした伏線が張られていたり、意外な幽霊の正体など、良い意味で読者を裏切る仕掛けがあって楽しめる。

 最後に、この本を読まれた方にお伺いしたいことが...ここからどうぞ(ちょっとネタバレ)

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(さらに…)

レイン・レインボウ

著 者:加納朋子
出版社:集英社
出版日:2003年11月30日
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「ななつのこ」で、鮎川哲也賞を受賞してデビューした著者の連作短編集。「ななつのこ」と同じように独立した短編がリレーのようにつながり、1つのストーリーを紡ぎだしていく。「ななつのこ」よりも、全編を通したストーリーが大きくしっかりとした太い流れになっている。連作短編集という、著者のスタイルが確立されてきたということなのだろう。とても面白く読んだ。

 ストーリーは、高校のソフトボール部のOGの死から始まる。
 その葬式に7年ぶりにかつての部員たちが集まる。その後は1編ずつ、1人ずつそれぞれを主人公とした、それぞれの生活が描かれる。何気ない生活の中のちょっとした事件を描くのに、著者は長けているので、1つ1つが短編として面白い。だから、最初の葬式は人物紹介の代わりかと思って、短編と短編のつながりをあまり意識しないでいた。
 しかし、読み進めるに従って、ある短編から別の短編へと、細いつながりがあることに気付いた。物語は何かに向かって進んでいることが分かる。何に向かって進んでいるのかは、何が起きているのかが明らかになる最後まで分からないが、とても大きな流れを感じることができる。素晴らしい構想力だと思う。

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ななつのこ

著 者:加納朋子
出版社:東京創元社
出版日:1992年9月25日初版
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「ささらさや」の著者の作家としてのデビュー作品。第3回鮎川哲也賞受賞作。鮎川哲也賞というのは、長編推理小説に贈られる賞。本書がいわゆる推理小説かというと、そうではないと思う。巻末に選考委員の選評が載っていて、著者の力量は認めながらも、これを長編推理小説として良いものかどうか?、と悩んだ跡を見て取ることができる。悩んだ上で賞を贈っているのだから、本書が問題を抱えいてもなお捨てがたい優れた作品であった、ということなのだろう。

 殺人事件も起きなければスパイも登場しない。ここで起きる事件は、デパートの屋上のビニールの恐竜が、一夜にして遠くはなれた保育園に現れた、とか、夜に畑からスイカを盗まれた、とかいうことだ。著者が扉のページで書いている言葉を借りれば、「日常に溢れている謎解き」がふんだんに盛り込まれている。
 筋立ては、複雑かつ巧みだ。「ななつのこ」という架空の小説の中で、「あやめ」さんという名の女性が、その小説の主人公である「はやて」が体験する様々な不思議の謎解きをしてみせる。そして、本書の主人公である「駒子」と「ななつのこ」の作者である「綾乃」の往復書簡の中では、駒子が体験する事件の謎解きを綾乃がしてみせる。さらに….、と2重3重の入れ子構造になっている。

 これだけの入り組んだストーリーを、混乱することもなく一気に読ませる筆運びが、著者の力量の表れだ。迷いながらも本作を選定した選考委員の気持ちも分かる気がする。そして感謝する。これは長編推理小説ではない、として選考されなければ本書を手にすることはなかっただろう。もしかしたら、後に続く著者の作品群を読む機会もなかったかもしれないのだから。

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ささらさや

著 者:加納朋子
出版社:幻冬舎
出版日:2001年10月10日第1刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 深夜のテレビドラマでやっていた「てるてるあした」の原作。ドラマは、同じ「佐々良」という町を舞台にした本書と「てるてるあした」の2つの小説を合わせて原作として、脚本を書いたらしい。ドラマでは木村多江が演じた準主役のサヤさんが、本書では主人公。

 サヤは突然の交通事故で夫を亡くした。生後2ヶ月の赤ちゃんのユウ坊を残して。サヤは全く頼りないというか、人が良すぎて簡単に人に騙されてしまう。
 しかし、死んだダンナが誰か他の人に乗り移って助けてくれる。でも、乗り移ることができるのは、幽霊のダンナを見ることができる人だけ、それも1回限りだ。

 とにかくサヤが頼りない。見ていて(読んでいて?)心配だ。死んだダンナでなくても十分に心配。赤ちゃんのユウ坊を育てるのも育児書のままだし、不動産屋に家賃を騙し取られても、「あの家も赤ちゃんが生まれて何かと大変だから」と、許してしまう始末。
 3人のバァさんたちと、エリカという友人と、幽霊のダンナに守られて、何とか危機を克服する。いつかは、自分で生きていけるのだろうか?
 少し幻想的なお話で、ちょっとホロッとさせられたい人に特におすすめ。

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