53.池上彰

日本の選択 あなたはどちらを選びますか?

書影

著 者:池上彰
出版社:角川書店
出版日:2012年12月10日 初版発行 12月25日 再版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 複雑な問題を、丁寧に分かりやすく説明してくれる池上彰さんの近著。日本が抱える10個の問題の選択について解説している。書かれたのは昨年末の総選挙の直前、投票の前に本書を読んでいたら、1票の行き先が違った、という人もいるかもしれない。

 10個の問題とは、「消費税」「社会保障制度」「ものづくり」「領土問題」「日本維新の会」「大学の秋入学」「教育員会制度」「原発」「選挙制度」「震災がれき」。それぞれを、必要であればその起源まで遡って説明し、「賛成」「反対」などの「どちらを選びますか?」という選択を読者に促す。

 本書は一昨年の震災後まもなく出版された「先送りできない日本 」を受けて作られたもの。著者は本書の「おわりに」で、前書を「もう先送りなどできない状態のはず」と希望を込めて世の中に送り出したのに、「その後の状況に驚きを通り越して呆れることも多々」と、その心情を吐露している。

 「先送り」は事態をより困難にするばかり。政治家や官僚には期待できないと踏んだ著者が、私たち国民に「選択をすべきだ」と言っているわけだ。しかし著者は、丁寧に分かりやすく説明してくれるが、答えを示してはくれない。それを決めるのは、私たち一人一人。私たちも永らく「選択」せずに来てしまったらしい。

 最後に。池上彰さんは得難い人材だと思う。混迷の時代にこういう人が現れたことは幸運でさえある。ただ、テレビも活字メディアも池上さんに頼り過ぎのような気がする。今日もテレビで「巨大地震」をテーマに4時間スペシャルが組まれていた。

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知らないと恥をかく世界の大問題

書影

著 者:池上彰
出版社:角川SSコミュニケーションズ
出版日:2009年11月25日 第1刷発行 2010年5月4日 第15刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 1年弱前に読んだ「14歳からの世界金融危機。」の著者の新書。書店で新書ランキングの上位になっていた。新書の場合は、売れている(という噂の)本がさらに売れる、という傾向があって、ランキングが中身の良し悪しを反映しないと思っているので、それだけであれば手を出さないのだけれど、「14歳からの~」が思いのほか良かった覚えがあったので読んでみた。

 内容は、世界の勢力地図、アメリカの覇権の崩壊とパワーシフト、世界の問題点、日本の問題点、と今の世界を網羅的に説明している。歴史的な流れを踏まえた考察やウラ話的なものも交えてあり、新聞記事より奥行きがある情報が得られる。
 「はじめに」で世界金融危機のことに触れ、「ブッシュ大統領以外の世界の指導者たちは、歴史に学んでいました」と書いているように、ブッシュ政権(あるいはブッシュ元大統領個人)には大変厳しい眼を向ける。今世界が抱えている問題のいくつかは、ブッシュ政権の失策が原因だとも読める。(「世の中の悪いこと全部が、自分たちのせいにされる。アメリカみたいだ」(伊坂幸太郎「ゴールデンスランバー」より)という言葉を思い出した。)
 その反動もあってか、日米の民主党に対しては肯定的な意見が多い。本書の発行は2009年11月、オバマ政権発足から10ヶ月、鳩山政権からはわずか2ヶ月だ。著者も、新政権には期待を持っていたのだろう。今なら、違うことを書かなくてはならないと思うが。

 「知らないと恥をかく~」というタイトルは、見栄っ張りのビジネスパーソンに効きそうな殺し文句。まぁ、知らなくても恥をかくことはないが、どこかで披露するとちょっと得意になれるような話題が詰まっているので、話のネタを仕入れるつもりで買うのなら760円の価値はあると思う。
 しかし「上っ面をなでました」というスカスカした印象はぬぐえない。本書の帯に「世界のニュースが2時間でわかる!」とある。「14歳からの世界金融危機。」は「45分で分かる!」というシリーズ。どちらも「お手軽さ」を謳ったことは共通だが、テーマを世界金融危機1つに絞った45分は意外に充実したものだったが、いくつもの問題を扱っての2時間ではそれはムリだった、ということだ。私としては、年金や教育や地方分権など、本書で取り上げた「日本の問題」について、著者の意見をもう少しじっくりと聞いてみたい。

 それにしても著者のテレビでの人気ぶりはスゴイ。調べてみたら、古巣のNHKを除いて在京キー局のすべてが、今年になってからバラエティ番組などで、ニュース解説に著者を起用している。テレビ局は「ニュースを国民に分かりやすく伝える」という機能を、自前では賄えなくなっているのかもしれない。

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14歳からの世界金融危機。

書影

著 者:池上彰
出版社:マガジンハウス
出版日:2009年3月23日 第3刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 最近は、「簡単」で「すぐ読める」本がバカ売れすることがあり(「1Q84」はこれに当たらないが)、あらすじで名作を読もうという本まである。私はこうしたお手軽な本には、否定的な感想を持っていた。簡単にしたことで重要なものが抜け落ちて、それがないと物事は全然違って見えるかもしれないからだ。
 そこへ来て本書は「45分でわかる!」と銘打ったシリーズの1番手。さらに、先日本書の著者による本書をベースにしたと思われる、「池上彰のやさしい経済教室」なる記事が朝日新聞に載っていた。45分でわかる本をさらに要約して2500字前後、まぁ5分ぐらいで読めるようにしたわけだ。なんてお手軽志向なんだろう。

 それで新聞の記事を読んで思ったことが2つ。1つ目は、やっぱりこれでは物事を単純化しすぎなのではないか、ということ。「サブプライムローン」の破たんの原因が「信用力の低い人に貸したこと」としか書かれていない。
 2つ目は、私が知らないことが書いてある、ということ。まぁ、全てのことを知っていると驕るつもりは毛頭ないが、それでも、「グローバル恐慌」も読んだし、新聞も結構読む方だし、毎晩ニュースも見るし、5分で読める解説の内容ぐらいは知っていると思っていた(これだって充分に驕りだったわけだ)。

 前置きが長くなったが、本書を読んだ感想。100ページに満たない薄~い本だけれど、45分の時間をかける価値は充分にあると思う。もちろん2500字が100ページ弱に増えても、単純化の弊害からは免れてはいない。しかし、1つ1つを短く説明することでより多くのことが書けているし、それらを関連付けて説明することに成功している。簡潔に書くことで、逆に新聞やニュースでは見えなかったことやつながりが見えてくるのだ。
 本書は、少し前にブログ友達のさーにんさんが教えてくれたものだが、その時には「物語とは違って、説明は分かりやすく簡単にすることはとても大切」などと答えていた。今も改めて同じことを思う。

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大人になると、なぜ1年が短くなるのか?

書影

著 者:一川誠、池上彰
出版社:宝島社
出版日:2006年12月30日第1刷
評 価:☆☆(説明)

 著者2人は、それぞれ認知科学者と、元NHK記者のジャーナリスト。2人の対談をまとめて出版した形。

 認知科学者である一川誠氏は、山口大学の「時間学研究所」のメンバーである。「時間学」なる学問が確立されているとは思わないが、心理学や物理学から、文学、考古学、哲学といった様々な学問の学際的研究によって、時間に関する学問の価値創造を行っているらしい。この取り組みは面白いと思う。

 前半は、一川氏の専門である認知科学の面白い事例が紹介されていて、「へぇ」と思わせてくれる。人間は実は見たもののほとんどを覚えていない、とか。例えば、見知らぬ人に道を聞かれて、途中で道を聞いた人が入れ替わっても、半数以上の人は気付かない、といった実験。また、同時に光っても、動いている光点は実際より先に進んで見えてしまう「フラッシング効果」も興味深い。サッカーのオフサイドは、この錯覚のために正確な判定は難しいそうだ。

 後半になってタイトルの「大人になるとなぜ1年が短くなるのか」の話題になる。しかし、これに対しては、期待を満たすような回答はない。「子どものころは変化に満ちていて、運動会や遠足などイベントが多くて充実しているからではないか」などと、普通に思いつくようなことが言われているだけだ。これについての学問的検証もない。対談で出てきた話題の中で、ウケそうなものをタイトルにしただけではないのか?

 ただし、「大人になると…..」という話のくだりではないのだけれど、「1,2,と、カウントしないで自分で1分を測ることで、代謝の良い悪いが分かる」ということが紹介されていた。
 代謝が良いと実際より早く1分だと感じてしまう、悪いと遅く感じる。子どもの頃は代謝が良いので、自分は1分経ったと思っても45秒だったりするわけだ。これなら、子どもの頃は時間がゆっくり流れるように感じるはずで、この説明なら何とか学問的かもしれない。

 タイトルに対する明快な解や研究を期待すると裏切られてしまうが、時間に関する興味深い話を仕入れることはできる。

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