55.堤未果

デジタル・ファシズム

著 者:堤未果
出版社:NHK出版
出版日:2021年8月30日 第1刷 9月30日 第3刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 急速に進む社会のデジタル化に対して、特に日本の状況について警鐘を鳴らす本。

 本書は「政府が狙われる」「マネーが狙われる」「教育が狙われる」の3部構成。それぞれのテーマで強大な権力の集中と利権に切り込むとともに、市民生活を脅かす危険性を指摘する。どれも私の知らなかった、すくなくとも意識したことがなかったことだ。

 「政府が狙われる」。みなさんは知っていただろうか?デジタル大臣は、通常は閣議決定しないと出せない他の省庁への勧告を、閣議を経ないで直接だせる、ということを。また、デジタル庁の予定される600人の職員の3分の1にあたる200人は民間企業から迎え入れる、ということを。利害関係者が政府と企業を行き来する、いわゆる「回転ドア」形式だ。

 「マネーが狙われる」。みなさんは知っていただろうか?○○ペイは銀行のような厳しい審査がある認可制ではなくて「登録制」であることを。万一の破綻や不正利用の際の「預金者保護法」のようなルールも、個人情報保護規定もないことを。また、デジタル通貨はその管理者によって容易に取引を止められる恐れがあることを。

 「教育が狙われる」。みなさんは知っていただろうか?GIGAスクール構想によって進められた一人一台のオンライン学習によって、膨大な生徒たちのデータがGoogleに集約されることになったことを。それを制限する個人情報保護ルールが緩められたことを。オンライン教育が進めば究極的には教師は全国で1教科に1人でいい、と考える人が政権の中枢近くにいることを。

 本書の内容を「陰謀論」の類と考える人がいるのだけれど、本書を含めて著者の著作を読んだ私は「著者がそう言うのなら事実なのだろう」と思っている。取材によって、都合のいい意見をピックアップする傾向は感じるのだけれど、法案の成立など、意見を差しはさむ余地のない「事実」が丹念に調べ上げてあって信用が置ける。

 最後に。タイトルにある「ファシズム」という用語は、実は定義が定まっていない。なんとなくナチスなどの個人の自由を認めない抑圧的な体制を思い浮かべる。だから「いくらなんでもそれは考えすぎ」と思う人が「陰謀論」と考えるのかもしれない。私が読む限りは、本書での著者の直接的な懸念は「権力と利権の集中」にあって、抑圧的な体制はその延長にある。もちろん延長にあるのだから「考えすぎではない」のだけど。

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サル化する世界

著 者:内田樹
出版社:文藝春秋
出版日:2020年2月28日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 この人のお話をじっくり聞きたい、こちらからもお話をさせてもらいたい、そう思った本。

 著者がブログに書いた記事などをまとめた本。「サル化する世界」は、冒頭の記事のタイトルでもあり、その記事で著者は、ポピュリズムを「「今さえよければ、自分さえよければ。それでいい」という考え方をする人たちが主人公になった歴史的過程のこと」と言う。その「今さえよければいい」という思考を、「朝三暮四」のサルに例えて、それで「サル化する世界」というわけ。

 一応「朝三暮四」の故事成語について。春秋時代にサルを飼う人がいて、朝夕にトチの実をやるのに、「朝に3つ、夕に4つ」と言ったらサルたちが怒り出した。そこで「朝に4つ、夕に3つ」と変えたらサルたちが大喜びした。そういう話。「目先の違いにとらわれて、結局は同じであることを理解しない」またそうやって人を欺くこと、という意味がある。

 記事のテーマは多岐にわたる。「民主主義」「中国」「韓国」「敗戦」「AI」「教育」「高齢者問題」「貧困」「雇用」...巻末にはグローバル化をテーマにした堤未果さんとの特別対談が収録されている。テーマは多岐にわたるけれど、どれにも「朝三暮四のサル」的な思考の蔓延に通じる。このタイトルを付けた人のセンスに敬服する。

 たくさんの気付きがあったけれど、深く共感して心に残ったことをひとつ。それは「優劣を比較する対象があるとしたら、それは「昨日の自分」」ということ。

 よく知られていることだけど、著者は大学の名誉教授であると同時に武道家でもある。300人ぐらいの門人を抱える、合気道の道場を構えている。門人たちを比べて、この人の方がこの人より巧い、というようなことは「考えたこともない」そうだ。修業上にそんなことは何の意味もないからだ。

 話は私事になるけれど、私は「希望する人は全員が大学教育を受けられるように」という政策が実現すればいいと思っている。その話を誰かにすると、かなりの確率で「大学を出ても使えない人もいるし、高卒でも優秀な人はいる」という話が返ってくる。

 ダメな大卒とデキる高卒を比べても意味がない。比べるなら、同じ人が高卒で社会に出た時と、大学教育を受けて社会に出た時を比べないと...と言うのだけれど、これまたかなりの確率で分かってもらえない。だから内田先生のこの話「わが意を得たり」の想いがした。

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日本が売られる

著 者:堤未果
出版社:幻冬舎
出版日:2018年10月5日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 最初に注意書きを。「とにかく今日を穏やかな気持ちで過ごしたい。何年か先に安心安全な暮らしが失われても構わないから」という人は、読まない方がいい。本書も、この記事も。

 帯に「日本で今、起きているとんでもないこと」とある。本当にとんでもないことが起きている。

 タイトルの「日本が売られる」とは、この日本で、私たちの生活に欠かせない様々なものが、値札を付けられて(主に外資に)売られるという意味。本書冒頭にある「水が売られる」を例として紹介する。

 水道を運営する自治体の財政は苦しい。国は責任を取らず代わりに打ち出したのが「民営化」。「民間企業のノウハウを生かし、効率の良い運営と安価な水道料金を」というわけ。民営化とはその事業を企業に売ることに他ならない。売れば何億、何十億ものカネが手に入る。自治体にとっては魅力的だ。

 さらに、これを後押しするための法改正が度々行われている。例えば、「運営」を売った自治体には、地方債の利息免除をいうニンジンをぶらさげる。現在審議中の水道法改正案が成立すれば、また、企業側の優遇として、こんなことになる。

 (1)「所有」と「運営」を分離して、企業は「運営権」だけを持つことで、安定供給の責任を持たな句てすむ。つまりノーリスクで、収入だけを得られる。(2)これまでは厚生労働大臣の「認可」が必要だった料金改定を「届け出」でできる。(3)料金設定の規定に「健全な経営を確保することができる」と入ったことで、料金の値上げを正当化できる。

 まぁこれでも、企業が住民のための運営を行ってくれればいい。コスト重視で水質が悪くなったり、まずくて飲めなくなったり、料金が高くなったりしなければいい。ところが、日本より先に水道民営化が進んでいる各国では、こうしたことが起きて、違約金などで大金を支払ってても再公営化をするところが増えている。

 本書では「水」以外に「土」「農地」「森」「海」「学校」「医療」「食の選択」が、値札を付けられて売られる様子が、詳細に記されている。「タネ」という項目もあるが、こちらは「売る」のでさえなく、コメをはじめとした食物の種を、外資のバイオ企業から日本の農家が「買わされる」という、ショッキングな内容だ。

 最初に注意書きを書いたのは、私自身が読んでいて悲観にくれてしまったからだ。こんなひどいことを誰がやっているかというと、「規制改革」と称して政府がやっている(外国に行ってセールスまでしているらしい)。希望があるとすると、政府が変われば、防げるかもしれない、ということだ。

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世論(上)(下)


著 者:W.リップマン 訳:掛川トミ子
出版社:岩波書店
出版日:1987年7月16日 第1刷 1992年2月5日 第7冊 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 NHKの「100分de名著」という番組の、今年の3月に放送(4月に再放送)されたスペシャル「100分deメディア論」で、国際ジャーナリストの堤未果さんが紹介していた本。刊行は1922年というからほぼ100年前。

 著者は、アメリカを代表するジャーナリスト。数多くの論説、著作、テレビ出演が評価され、ピュリッツァー賞をはじめ様々な賞を受賞している。ただし本書を記したのは33歳の時で、まだそのような評価が固まる前。とは言えこの前には、第一次世界大戦後のパリ講和会議に随行し「十四か条の平和原則」を執筆したというから、早くから才能を見出されていたのだろう。

 本書の前半は「世論」の形成の考察。その主張を短くまとめるとこうだ。

 「世論」を構成するのは一般市民の意見。現実世界はあまりに大きく複雑なので、一般市民はそれを正確に捉えることができないため、その「イメージ」に基づいて行動する。その「イメージ」は、メディア等が伝える時に歪められ、私たちが受け取る時にはステレオタイプによって歪められている。このように二重に歪められた「イメージ」を基にした意見で構成される「世論」は、当然、現実を正しく反映しない。

 特に「ステレオタイプ」についての考察が興味深いので引用する。

 われわれが現に見ているものがわれわれの予期していたものとうまく一致していれば、そのステレオタイプは将来にわたっていっそう強化される。ちょうど、日本人はずるいと前から知らされている人が、あいにくと不正直な日本人二人とたまたま続けさまに出くわしてしまったようなときがそれである。

 そして、もし現実の経験がステレオタイプと矛盾するときには..

 規則にはつきものの例外であるとして鼻先であしらい、証人を疑い、どこかに欠陥を見つけ、矛盾を忘れようと努める。

 テレビ番組の中で伊集院光さんが「今週発売の新刊の話ではないですよね?」と念を押したように、これはまったく現在の話を聞いているようだ。私自身が持つステレオタイプにも留意するよう肝に銘じたい。

 後半は、「世論」に関しての民主主義の分析と「あるべき姿」の考察。前半を踏まえて、「一般市民の一人一人が正確な情報に基づいた有効な意見を」などとは言わない。そういうことは「できるはずも機能するはずもないフィクション」として排して、比較的にだけれど現実的な考察がされている。こちらも興味深い。

 100分de名著スペシャル「100分deメディア論」ホームページ

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政府はもう嘘をつけない

著 者:堤未果
出版社:KADOKAWA
出版日:2016年7月10日 初版 8月5日 再版 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 著者の近刊の「政府は必ず嘘をつく 増補版」の続編。タイトルとしては前作の問題提起としての「嘘をつく政府」に対して、「嘘をつかせない(見抜く)」方法を考察するという主旨と読める。実際、本書の結びはそうなのだけれど、そこに至るまでの大部分は、米国発の「強欲資本主義」によって、およそあらゆるものに値札を付けてお金で買う姿が描かれる。

 第1章は、現在佳境を迎えている米国の大統領選挙がテーマ。ここで買われるのは米国の「政策」だ。オバマ大統領が2012年の選挙で集めた政治献金はなんと約1000億円。大口スポンサーは「全米貿易協議会」、シェブロンやボーイング、モンサント、ウォルマートと言ったグローバル企業からなる財界団体だ。

 「今や「政治」は非常に優良な「投資商品」」と、米国の投資アナリストは言う。ざっくりした計算で、政治献金やロビー活動費、選挙費用や天下り人件費などで、年間約2兆円だそうだ。莫大な金額にも感じるが、全米の企業利益総額の1%程度だそうで、それで自分たちに都合のいい政策を買えるのなら、確かにローリスク・ハイリターンだ。

 そして一旦値札がついたものは、グローバル市場で誰でも買えるようになる。産油国はオイルマネーで米国の政策を買っているし、実は日本だってバイヤーの一人らしい。「日本政府がTPP推進のためのロビー活動をしている」と、大手通信社ブルームバーグが報道した。このことは何を意味しているのだろう?少なくとも日本政府からの説明を聞いたことがない。

 第2章では「日本が瀕する危険な状況」が描かれる。ここで買われるのは日本の「教育」や「医療」など。「特区」で風穴があくと、そこから商品化が拡がってしまう。第3章は「海外ニュース」がテーマ。ここで買われるのは「ニュース」自体だ。「戦争広告代理店」でも明らかにされているが、国際政治ニュースは、誰かが何かの意図を持って流している。

 そして一旦値札がつけられると、米国の政策と同じで誰でも買えるようなる。そうなると資金力のあるものに都合よくコントロールされてしまう。「それでいいんですか?」と著者は問いかける。それでいいはずがない。

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政府は必ず嘘をつく 増補版

著 者:堤未果
出版社:KADOKAWA
出版日:2016年4月10日 初版 6月25日 4版 発行
評 価:☆☆☆☆☆(説明)

 本書は2012年に出版した同名の書籍に、その後の4年間に起きた出来事を踏まえた書下ろしを「袋とじ付録」として加えた増補版。読んでもまったく楽しくならないけれど、これはたくさんの人が知っておくべきだと思ったので☆5つ。

 本書のタイトルの元にもなった、米国の歴史学者ハワード・ジン氏の言葉が本書の主旨を端的に表している。「政府は嘘をつくものです。ですから歴史は、偽りを理解し、政府が言うことを鵜呑みにせず判断するためにあるのです

 著者は新書大賞を受賞した「ルポ貧困大国アメリカ」の他、「沈みゆく大国アメリカ」などで、米国の政治経済社会を精力的に取材している。その米国での取材の最中に何度も言われたことがあるという。それは「アメリカを見ろ、同じ過ちを犯すな」だ。

 例えば、9.11後の捜索やがれき除去の作業現場では、有毒ガスによる健康被害の不安の声が上がったが、「作業現場は安全、ただちに健康に被害はありません」とEPA(環境保護庁)は言い続けたそうだ。その後10年の間に5万人の作業員が呼吸器系のがんなどの健康被害を起こしている。EPAは今も、作業員が発症したがんとの因果関係は否定し続けている。

 例えば、2005年にハリケーンが襲ったニューオーリンズでは、復興事業費の8割以上を政府関係者と関係の深い大企業が受けた。また、復興特区として最低賃金法の撤廃という規制緩和を行って、労働力を安く雇えるようにして、大資本の利益を大幅に拡大させている。

 前者の健康被害の例が、日本の何に対応するかは明らかだから、敢えて言わない。後者の復興事業の例は少し説明した方がいいだろう。

 日本政府は、東日本大震災の被災地を復興特区に認定し、農地や漁業権や住宅などを、外資を含む大資本に開放する規制緩和を行っている。そして東京都が受け入れたがれき処理は、東電が95.5%出資している会社が請負い、被災地の除染を請け負うのは、原子炉建屋の建設実績トップ3の3社だ。

 このように、嘘と隠ぺいの例が多数紹介されている。これ以外にもTPPのISDS条項と医療・保険分野の危険、日本人が信頼を寄せるIAEAやWHOなどの国際機関の実情、アラブの「民主化」の裏に隠された強欲資本主義など、正直言って「知らなきゃよかった」と思ってしまうほど「怖い真実」が並んでいる。

 念のため。「必ず嘘をつく」政府は、安倍政権(だけ)を指しているのではない、そもそも「ただちに健康に被害はありません」は民主党政権の時の話だ。だから、政権交代では解決しない。アメリカが黒幕だという意見も正解ではない。政府に嘘をつかせるのは、もっと得体のしれないもので、敢えて名付けると「グローバル経済」。簡単には対抗できない。でも方法がないわけではない。

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沈みゆく大国アメリカ

著 者:堤未果
出版社:集英社
出版日:2014年11月19日 第1刷 12月31日 第4刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 著者は「ルポ貧困大国アメリカ」で2008年の日本エッセイストクラブ賞、2009年の新書大賞を受賞。その後も米国の社会の歪みをレポートする著書を発表し、本書はその中の1冊。

 本書のテーマは「オバマケア」。米国のオバマ大統領が公約として掲げて、強力に推し進めた医療保険制度改革のこと。米国民全員が医療保険に加入する「国民皆保険制度」を目指したものだ。

 これを実現する法律が2014年に施行された。つまりオバマ大統領は公約を果たした。これによって無保険のために医者にかかれず、重篤になってからERに駆け込んだがすでに手遅れ、という悲劇はなくなる。オバマ大統領の大きな功績となった...はずだった。

 制度設計の失敗なのか意図的なものなのか分からないが、「オバマケア」には大きな問題がいくつもあった。私が感じる第一の問題、違和感と言い換えた方がいいかもしれないが、それは、米国民が得たのは、医療保険に加入する「権利」ではなくて「義務」だということ。日本の「国民皆保険」とは考え方が逆転している。

 米国民は、法律で定められた条件を満たした保険に加入する義務を負った。自分には必要ない項目が入っていて、それまで加入していた保険より保険料が高くて、家計を圧迫するとしてもだ。

 さらに「オバマケア」はもっと深刻な問題を抱えている。詳細は本書を読んでいただきたいが、その大元にあるのは、医療が「ビジネス」になっていることだ。だから経済性や効率が最優先される。人の健康や命さえも、採算に合わなければ切り捨てられる。

 私たちにとってさらに恐ろしいことに、この米国流の「医療ビジネス」は、すでに日本に上陸しているという。そのことを記した最終章は背筋が凍る想いがした。「無知は弱さになる」ニューヨークのハーレム地区の医師の言葉だ。私たちは自分たちの医療保険制度について、もっと知らなくてはならない。

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