著 者:古川日出男
出版社:講談社
出版日:2021年3月3日 第1刷 発行
評 価:☆☆☆(説明)
楽しいことは書いてないけれど、大事なことなら書いてある本。
著者は作家で福島県郡山市出身。本書は著者が、主に福島県内を長距離、徒歩で歩いたルポルタージュ。徒歩行は2回。1つ目は、2020年の7月から8月にかけての19日間280キロ。2つ目は11月の末の4日間80キロ。
そのきっかけは、東京オリンピックが「復興五輪」を謳ったことを「単純に妙だと」思ったことだ。だから、その開会式から閉会式までの間、福島県内を歩いて、歓迎されているのか?復興に貢献しているのか?見よう、そして話を聞こうと考えた。
福島県は「浜通り」「中通り」「会津」に大きく分かれる。1つ目の280キロは、「中通り」を縦断する国道4号線を北上し、「浜通り」を縦断する国道6号線を南下する。その折々にたくさんの人の話を「傾聴」する。それぞれが遭遇した東日本大震災と原発事故、その後の9年間のことが、丹念に掘り起こされる。
2つ目の80キロは、阿武隈川が宮城県に入って海にそそぐ手前で、国道4号線と6号線が合流するのだけれど、その合流地点の前後を歩く。著者は、子どものころに川で溺れた(溺れた子を助けようとして沈められた)ことがある。その川をたどると阿武隈川に出る。この道行きには、そうした著者の記憶も関係している。
読むのに体力が必要だった。
360キロを歩いた著者の体力に比べるべくもないけれど、その一部を請け負うぐらいの気持ちがした。「ルポルタージュ」としては丹念に人の話を聞き、記録されている。どの人の話も傾聴に値する。東日本大震災は、人によって異なる経験だった。
しかし、被害の大きさ、深刻さ、政治的な意味合いなどで、世間はその経験に「重要度」をつけてしまう。原発事故のあまりの衝撃に、「重要性」を吹き飛ばされてしまった被災地もある。その人たちの声に、私たちの誰が耳を傾けただろう?本書を読むと、そういった人々の苦労の一片が、わが身に積もる思いがして
消耗する。
時々、著者の思考が彷徨いだす。特に2回目の80キロの時には、平家物語の世界を漂ったり、目の前に実在しない道連れが現れたりする。長距離を歩いていると様々なことが頭に去来するのだろう。読んでいるこちらも「歩いている」ことを実感する。これも体力を使う。読むときには、時間をかけてじっくりと読んでほしい。
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