目の見えない白鳥さんとアートを見にいく

書影

著 者:川内有緒
出版社:集英社インターナショナル
出版日:2021年9月8日 第1刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「この言葉、覚えておきたいな」と思って、たくさん付箋をつけた本。

 2022年の本屋大賞「ノンフィクション本大賞」受賞作

 本書は、著者が白鳥健二さんという全盲の方と、国内の様々な美術館を訪ねてアートを見る(鑑賞する)様子を描いたもの。

 どんなアートかと言うと、最初は三菱一号館美術館の「フィリップスコレクション展」。ゴッホにピカソにセザンヌ..印象派などの名画が中心。次は国立新美術館の「クリスチャン・ボルタンスキー展」。現代美術界の世界的な巨匠。次が水戸芸術館の「大竹伸郎 ビル景1978-2019」。日本を代表する現代美術家。その次は、奈良の興福寺の国宝館。有名な阿修羅像や千手観音立像をはじめとした館の名前どおりに国宝級の仏像が多数。その次は...。

 こうして並べて明らかなように、作品を触って鑑賞することはできない。では全盲の白鳥さんが「アートを見る」というのはどういうことなのか?それは絵を前にして白鳥さんが著者にかけた言葉が端的に表している

 「じゃあ、なにが見えるか教えてください」

 そう。同行した人の説明を聞いて白鳥さんはアートを見る(鑑賞する)。

 いやいや、これ、説明する人がめちゃくちゃ大変そう。そもそも白鳥さんはそんなんで楽しいの?と、多くの人は思うだろう。私もそう思った。著者も最初は「白鳥さんは楽しんでくれているんだろうか」と思っていた。

 その疑問は、本書を読み進めればすぐに雲散霧消する。白鳥さんはこの鑑賞方法を楽しんでいる。なんといっても白鳥さんはこの方法で年に何十回も美術館に通うのだ。
 そしてこれが大事なところなのだけれど、白鳥さんとアートを鑑賞した(つまり説明した)人も、例外なく「ほんとに楽しいよ」と言っている。そのような、視覚障害のある方と鑑賞するワークショップも開催されているそうなので、私も参加してみたいと思った。

 そしてさらに大事なところ。本書は全盲の人と一緒に見た「アート鑑賞記」なのだけれど、読者に届くのはそれにとどまらない。「アートを見る」とは私たちにとってどういうことなのか?障害や差別についての複雑な思考。時には私の中の内なる差別意識に気づかされることもあった。読む前には思いもしなかった奥深い空間が、本書の中には広がっていた。

 一言だけ引用(実は他の書籍からの引用された文中にあったのだけれど)

 「ギリギリアウトを狙う」

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