数学的にありえない(上)(下)

著 者:アダム・ファウアー (訳:矢口 誠)
出版社:文藝春秋
出版日:2006年8月25日第1刷 2006年9月15日第2刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 原題は、Improbable(ありそうもない)、だ。邦題に「数学的に」と付いているのは、主人公はケインという名の大学院生で、複雑な計算に瞬時に答を出す天才、物語の随所で様々なことが起きる確率を計算しながら行動しているからだろう。
 例えば冒頭では、ポーカーの勝負で自分が負ける確率を、場の札などから26,757分の1ぐらい(この時は、吐き気がひどくで正確な計算ができなかったから「ぐらい」なのだ)、とはじき出して大勝負に出る。残念ながらこの勝負には負けてしまう。26,757分の1の確率、これを「数学的にありえない」というのだろうか、その確率の出来事が起きてしまったのだ。

 実は、ケインの能力はこの計算だけではなく、更に信じられない能力を開花させる。この能力を狙った陰謀に巻き込まれていくことになる。ケインはこの能力によって、陰謀から逃れるために、さっきのポーカーの負けなど比べ物にならない低い確率の「数学的にありえない」出来事を引き起こしていく。危機を脱したと思ったら、さらなる危機が迫り、それをまた思いも付かない方法で乗り越え、といったジェットコースター・サスペンスだ。

 本作は、著者の処女作。処女作にしてこれだけの起伏のあるストーリーを紡ぎだせるのだから恐れ入る。いくつもの伏線が絡み合い、読者をだますための巧妙な仕組みも潜んでいるし、CIA、FBI、KGB、NSAなどの政府機関やその陰謀など、面白くする要素もギッチリ詰まっている。
 しかし、少し苦言を呈すると、あまりにストーリーの起伏や転換を狙いすぎではないか。もうこれは、著者自身が楽しんでいるのではないかとさえ思える。
 ケインの能力を使えば、ありえないことも実現してしまうのであるが、その能力を以ってしてもこれはないんじゃないかという出来事がいくつかある。例えば、逃走中にハイウェイで走ってきた車を止めると、恩師が運転していた、なんてことだ。
 また、思わぬ人の協力や裏切りがストーリー進行に必要なのだけれど、ちょっと簡単に協力しすぎだと思う、ご都合主義的なところも散見される。さらに、これでもかというほど、意外な登場人物のつながりが明らかにされるが、そんなにしなくても十分に面白いのに、と思う。

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