最初のヒト

著 者:アン・ギボンズ 訳:河合信和
出版社:新書館
出版日:2007年8月25日初版第1刷
評 価:☆☆☆(説明)

 「最初のヒト」化石の発掘をめぐる、化石ハンター達の仕事と成果が、詳細に、時に生々しく語られている力作。特定の分野に焦点を当てた著作によくあるように、専門家から見れば色々と異議はあるのだろう。
 しかし、専門家ではない私から見れば、理解できない専門用語の行列に悩まされることまく、「人類の祖先をめぐる数多くのことを知ることができたし、何より十分に楽しめた。専門書ではなく一般の図書として出版されている以上、専門家でない人が楽しめることが第一に大切だと思う。
  謝辞に70人にもおよぶ研究者の名前が並ぶので分かるように、膨大な取材の上に本書は成り立っている。科学誌「サイエンスの」主席ライターだからこそできたとも言えるが、これだけの深い内容を引き出した取材は、並大抵のものではない。

 正直に言えば、この本を手に取ったのは、人類の歴史についてのドラマを期待していた。いつごろ、どこで、どんな姿で、どんな生活をしていたか。多少乱暴でも、少しばかり科学の味付けがあれば、好奇心を満たす面白い読み物になるだろうから。
 だから、最初は少し面食らった。その分野では著名なのだろうけれど、門外漢は知らない名前が次々でてきて、拾った化石を見比べてどうだった、ということの繰り返し。
 しかし、人物の輪郭がおぼろげに把握できるようになると、これが実に面白い人間ドラマであることが分かる。化石ハンターたちの駆け引きや、ねたみ、アフリカの政治家を巻き込んでの確執、人類の祖先の創作ドラマより断然面白いではないか。
 それぞれの化石ハンターたちが、自分を信じて調査にすべてをかけている。顎骨の化石を見つけるのに1年や2年はザラだ。いや、見つかればよし、見つからないほうが圧倒的に多いのだろう。そんな彼らが魅力的な人々に見えてくる。

 好奇心という意味では、色々なことが本書を読んで分かった。ヒトと類人猿の境界は、「直立二足歩行」にあること。頭蓋骨の化石があれば、直立二足歩行をしていたかどうかの推定ができること。そして多くのこの分野の化石は、頭蓋骨さえそろってはなく、顎骨や中には歯だけ、というのもあること(実際歯だけでどこまで何が分かるのか、というのは本書を読んで解説を受けた後でも疑問なのだが)。ヒトの祖先は、今や700万年も遡るとされていること。今はホモ・エレクトスと言われているピテカントロプス・エレクトスは「ピテク」(猿)+「アントロプス」(ヒト)+「エレクトス」(直立した)というラテン語の造語だということ。

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