新釈 走れメロス 他四篇

著 者:森見登美彦
出版社:祥伝社
出版日:2007年3月20日初版第1刷
評 価:☆☆☆(説明)

 諸説雑誌に掲載した短篇5篇の短篇集。表題の「走れメロス」の他、「山月記」「藪の中」「桜の森の満開の下」「百物語」と、太宰治、中島敦、芥川龍之介、坂口安吾、森鴎外と、日本文学の文豪たちの作品名が並ぶ。
 表題に「新釈」とあるので、基の作品に新しい解釈を加えて描き直したものかと思った。実際はそうではなくて、基の作品のテーマや表現手法などに着想を得て、著者が書き下ろしたもの。文豪の作品のリメイクを期待する人にはハズレ、森見作品を楽しむ人にはひとまずアタリ、ということだ。なぜなら、舞台は京都の街、登場人物たちは腐れ大学生たちと、森見ワールドお馴染みの設定だからだ。

 雑誌への掲載時期を見ると、2005年10月号から2007年3月号と、「夜は短し歩けよ乙女」の出版前後から、「有頂天家族」の出版前まで。「走れメロス」と「百物語」には「夜は~」のエピソードが登場するし、「山月記」には「有頂天~」に通じるものがある。このように3冊の作品のつながりを楽しむ読み方も、悪くないのではないか。

 「森見作品を楽しむ人にはひとまずアタリ」と、「ひとまず」をわざわざ付けたのには理由がある。森見ワールドっぽさ(こんな言い方で分かってもらえるだろうか)で言うと、5篇の作品に落差があるからだ。「夜は~」「有頂天~」の雰囲気を一番強く残しているのは「走れメロス」だ。
 「山月記」と「藪の中」は森見ワールドの範疇に入るが、「桜の森の~」はかなり違った趣だ。坂口安吾がベースなだけに、悲しいような怖いような雰囲気が漂う。「百物語」は、私には面白みが分からなかった。

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5つのコメントが “新釈 走れメロス 他四篇”にありました

  1. たこΩ

    はじめまして。書評、楽しく読ませていただきました。
    「桜の森の満開の下」は、話の筋が、石田衣良っぽいなどと思って読みました。確かに、森見氏全開ではなかったですね。
    「メロス」で「図書館警察」が出てきたあたりでは、大喜びしてしまいました!

  2. YO-SHI

    たこΩさん、コメントありがとうございました。

    「桜の森の満開の下」確かに石田衣良っぽいかも。
    大人の男女の関係と微妙なズレの描き方が。
    でも、坂口安吾の原作は、怖~いお話なんですよね。

  3. たこΩ

    坂口安吾の原作、ほんとに怖かったですね。
    お姫さまの首遊び、ホラー小説のようでした。その印象ばかりが強くて、桜の森の恐怖が薄れてしまっていたかも。

  4. たかこ

    こんにちは。
    「桜の森の満開の下」は原作の方が良かったかな。と、いうか森見さんの方が印象が薄かった感じです。原作、かなり怖いので…(^_^;)
    京都の町と腐れ大学生、いい味が出てました。

  5. YO-SHI

    たかこさん、コメントありがとうございました。

    坂口安吾の原作の怖さは別格ですね。なんというか、
    余分なものの無い「怖さ」を文章にしたような感じです。

    たかこさんのブログも拝見しました。
    この本の前に、それぞれの原作に目を通して事前準備
    されたのですね。それは正しい鑑賞方法だと思います。
     

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