バッテリー(1)~(6)

著 者:あさのあつこ
出版社:角川書店
出版日:(1)2003.12 (2)2004.6 (3)2004.12 (4)2005.12 (5)2006.6 (6)2007.4 初版
評 価:☆☆☆☆(説明)

 第1巻は11年前、最終巻の6巻は3年前に刊行されている。噂はかねがね聞いていた。児童書だと軽く見てはいけない、と。この度、小学生の娘が春休みに読むために6冊まとめて文庫本で買ってきたのを読んだ。
 主人公は、中学1年生の天才ピッチャー原田巧。中学生の天才ピッチャーというのがどういったものがイメージしにくいのだが、彼の球を受けた人、打席に入って対峙した人、近くで見た人までもが、「あいつは天才やで」と言うような球を投げる。
 彼が岡山の小さな街である新田市に、父親の仕事の都合で引っ越して来て、やはり才能のあるキャッチャーである永倉豪と出会い、バッテリーを組む。この二人を中心に、その家族、同級生、周辺の大人たち、他校の野球部員と、渦を大きくしながらストーリーが展開する。

 「渦」という言葉を使ったが、巧自身は、周辺への関心を全く持たないにも関わらず、周りの人々を巻き込んでしまう。巧の球を受けることができる唯一人のキャッチャーの豪、巧の球を打つことに魅入られてしまった全国レベルの強打者の門脇、その他にも多くの人たちの生活を、大げさに言えば人生を変えてしまう。巧が誰も投げられない球を投げる、というその1点だけのために。

 児童書だと軽く見てはいけない、と聞いていたが、全くその通りの読み応えのある本だった。うがった見方をすると、児童書というのは、大人から見て「子どもはこうあって欲しい」というメッセージを込めたものと言えるだろう。しかし、主人公の巧はそういった子ども像には収まらない。その意味では、本書は児童書たりえないのではないか?
 彼は、より早く力強い球を投げるという目的以外の、一切の規範や常識を拒む。監督に髪を切るように言われても、野球と関係ないとして無視する。先輩の言うことにも従わない。自分を支えてくれる豪の心情さえも汲むことができない。
 そんなだから、当然衝突を生む。彼のむき出しの自我が、周囲の人々とぶつかり、お互いを深く傷つける。

 「こうあって欲しい」ということで言えば、こんな巧が色々な経験を経て成長し、周囲に受け入れられていく、という成長物語が順当なところだろう。そういった話なら児童書として安心して読める。
 著者も、巧が周囲と妥協していく方が楽だと分かっていた。それでもそれを拒んだ。巧の物語をそんな風に描いてしまっては、巧を貶めることになると思って、彼を変えることを頑なに拒んだのだ。行間から、自分が生み出した主人公が辛い思いをすることへの葛藤が伝わってくる。

ココから先はネタバレありです。

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 正直に言って、読んでいて辛くなってしまった。「そうは言っても巧君よ、いや、あさのさん」と言いたくなった。これでは、誰も幸せになれない。
 しかし、終盤に来て、巧の心がほんの少し変化する。注意していないと見逃してしまいそうな小さな変化だけど、確かに変わる。巧と豪の関係が僅かにズレる。巧が、キャッチャーとしてではなく、人間としての豪に自分の心を伝えようとする(それはうまく伝わらなかったようだけれど)。これが著者がギリギリ自分に許した巧の成長なのだ。
 僅かでも変化は変化、成長は成長だ。全くゼロではないのだ。これで、巧と豪の将来に少し光が見えた。そもそも、6巻で描いた期間はたったの1年間だ。1年間に起きたほんの僅かな成長。これだけのために、これだけの物語を紡いだのだから、素晴らしい。

 そうそう、私が巧以上に気になったのは、青波という名の巧の弟だ。生まれつき身体が弱く、ガラス細工のように脆い。天才の兄を自慢することも、妬むことも、羨むこともしないが、兄と同じ野球を始めた。フライをうまく受けただけで純粋に喜ぶ。その純粋さに周囲は驚いたり癒されたりする。
 しかし、芯に強さは持っているとは言え、あまりに純粋で透明な存在として描かれているので、私は、彼が物語のどこかで死んでしまうのではないかと心配だった。それほど儚く感じたのだ。そうならなくて良かった。

2つのコメントが “バッテリー(1)~(6)”にありました

  1. えみ

    こんにちわ!
    私もバッテリー読みましたよ。
    確かに普通の児童書とは違う持ち味の話だったと思います。

    私はどちらかといえば巧と似たような部分があり、
    そういった他とは違う人がいてもいいってことを
    訴えてるのかなって思いました。

  2. Diary

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