まほろ駅前 多田便利軒

著 者:三浦しをん
出版社:文藝春秋
出版日:2006年3月25日第1刷 7月25日第4刷
評 価:☆☆☆(説明)

 「風が強く吹いている」の著者の作品なので手に取った。不勉強のため、2006年上半期の直木賞受賞作であることは後から知った。
 本書はどういったジャンルに当てはまるのか、言葉の矛盾に目をつぶって言えば「ソフトなハードボイルド」か。主人公は、便利屋を営む青年、多田啓介。彼自身が好んでやっているわけではないが、ヤクの売人や娼婦、そのストーカーなどの危ない人間たちと絡み、刃傷沙汰や不可解な事件を乗り越えていく。
 友人が腹を刺されて瀕死の重傷を負ったり、ヤクザに凄まれたりと、ストーリーはハードボイルドの王道なのだが、何故かノリが軽い。そうか「ライトなハードボイルド」の方が、矛盾しないしうまく言い表しているかも。

 ライトな感じを漂わせているのは、腹を刺される友人の行天春彦の存在によるところが大きい。彼の突き抜けた奇人ぶりが、シリアスな場面から暗さを取り除いている。彼は、高校時代の多田の同級生なのだが、指を落とすという大けがをした時に「痛い」と言った以外に一言も発しなかったという(どういうわけか、今は普通に喋るのだけど)。
 この物語の中でも彼の言動は常軌を逸している。そうなんだけれども、滅茶苦茶なんだけれども、その言動が事件の解決につながっている。そこが本書の面白さなんだと思う。

 面白く読めるし、短いストーリーが伏線が絡んで有機的に結びついていてよくできている。登場人物もみんな愛嬌があって好感が持てる。難を言えば、全体に漂う軽さと読みやすさが災いしてか、満足感には欠けるかも。直木賞が、年に1,2冊その時の大衆文学の秀作を選ぶ賞だとするならば「本書がそれなのかな」と、ちょっと疑問だ。

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