ウェブ時代をゆく -いかに働き、いかに学ぶか

著 者:梅田望夫
出版社:ちくま新書
出版日:2007年11月10日第1刷 2007年12月5日第4刷
評 価:☆☆☆(説明)

 あとがきによれば、本書はベストセラーとなった「 ウェブ進化論」と対になった本である。前書がウェブ時代の意味を書いたものであるのに対し、本書は「その時代に生まれる新しい生き方の可能性」をテーマとしたものだ。
 実は、私が本書を手にした時に期待していたのは、「ウェブ進化論」を読んだ時の新鮮な驚きや、現状が整理されて目の前が晴れるような感覚の再来だった。そして残念ながら、そういったものは、本書にはない。
 しかし、それは当然である。冒頭のように、本書は前書の続編や新版ではないのだから。私の勝手な期待が叶えられなかったにすぎない。サブタイトルに「いかに働き、いかに学ぶか」とあるのだから、テーマが違うことに気が付くべきだったのだ。

 まずここで思考実験。あなたは、航空宇宙工学で熱の制御を専門に博士号を取得しようと勉強中です。就職先として専門を生かせるNASAやボーイング社が考えられるけれど競争は厳しそうです。そんな時、Googleが巨大コンピュータシステムの熱処理の課題を抱えていて、そこに新しい職業が生まれそうだと聞きました。直感的にパッと考えて、NASAやボーイング社とGoogleのどちらを選びますか?
 著者は、前者を「古い職業」後者を「新しい職業」として、その人の志向性を試している。2つの職業には優劣は全くない、だた「新しい職業」もあるのだよということを、著者は特に若い人に言いたいのだ。そして「飯を食う」つまり自分と家族を養うだけ稼ぐには、色々な方法があるのだよと言っている。

 「新しい職業」にはルールがなく不安定だということで、「道しるべ」のない「けもの道」という言い方を著者はしている。著者自身、1980年代に20才代半ばにしてコンサルタントという「けもの道」を歩き出して今日に至っている。そしてその頃に比べると、知りたいことは「すぐに」「無償で」ウェブで手に入る。今後は、ウェブの世界とリアルの世界の境界に、新しい職業や新しい雇用の形が次々に生まれてくる。だから、自身の時より「けもの道」も歩きやすくなっているはずだ、というわけだ。
 本書では、もっと具体的に「けもの道」の歩き方の指南がされている。先ほどの思考実験で「新しい職業」を選んだ人、大組織の中で生きづらいと感じている人、好きなことでやりたいことがある人は、一読をお薦めする。ただし、簡単にできる方法が書いてあるわけではないので、そのつもりで。

 ここから先は、書評ではなく、本書中にあった「人を褒める能力」ということに関して、思ったことを書いています。
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 本書中に、日本では「ある対象の悪いところを探す能力」を持った大人が社会で幅を利かせ過ぎている、と書かれた箇所がありました。他人が行ったことを(場合によっては自分が行った素晴らしいことも)褒めないのです。

 私の住んでいる街は、幸いなことに「街を良くしよう」と考えて様々なグループが活動をしています。その人たちが、他のグループがやったことを褒めない、認めない、問題点をあれこれ言う、ことが多く見られるのです。
 指摘された問題点は、的を射ているものも多いし、健全な批判は進歩に結びつくし、お互いにお世辞を言い合っていても意味がない。褒めるより批判する方が賢そうに見えるのかもしれない。それは分かるけれど、誰かが何かをやって成果があれば、「よくやった」と言えばいいのに。「街を良くしよう」という同じ目的を持ってやっているのだから。でも、聞こえてくるのは「あんなことやったって...」「どうせやるなら...」という声ばかり。

 ある時、クリスマス前に駅前広場の飾り付けをあるグループがやりました。殺風景な駅前が明るく華やかになりました。それを見に来る人も大勢いるようでした。
 ところが、この飾り付けのことで、私が色々なところで聞いたのは「赤い色が多くて下品だ」「センスがない」という声ばかりでした。
 その声を聞いたのがどうかわかりませんが、翌年は流行りの青色ダイオードがふんだんに使われていました。そしたら今度は...「なんか寒々しいねぇ」...です。

 著者によれば、アメリカでは小学校から、他の人の作文にコメントをする訓練をするそうです。相手の良いところを見つけて褒める、批判する場合は建設的に行うということを、体系的に学ぶそうです。これはいいことですね。
 かく言う私のブログも、褒めるよりも批判に流れがちです。自戒の念を新たにしています。

 

4つのコメントが “ウェブ時代をゆく -いかに働き、いかに学ぶか”にありました

  1. fay

    コメントとトラックバックありがとうございます。

    個人的には楽しめた本でした。
    ウェブ進化論と似たような内容だったら
    途中で飽きてたかもしれません。
    対になってることでバランスが取れてた感じがしました。

  2. YO-SHIさんこんばんわ。
    私のブログにコメントしてくださってありがとうございます!(ダウン・ツ・ヘブンの記事について)
    記念すべき初コメだったので嬉しかったです、ありがとうございます。
    といってもあまり大したことは書いてないのです・・ハズカシヤ(^_^;)
    YO-SHIさんの記事も読ませていただきました。いや~、どの作品に関しても凄く詳しく書かれていらして本当に参考になります!私ももっと沢山本を読みたいです。
    偶然にも今私は『姑獲鳥の夏』を読んでいるところです。まだ序盤ですが、世界観を楽しんでいます。
    『スカイ・クロラ』シリーズなかなか面白いですね。飛行シーンの描写は本当に独特の浮遊感を感じます、確かに用語はよくわかりませんがそれを差し引いても十分楽しめました。今は『ダウン・ツ・ヘブン』の続編の『フラッタ・リンツ・ライフ』を読んでいます。早くスカイ・クロラを読みたかったのですが、図書館ではすでに借りられていました・・・orz
    あと上橋先生の『精霊の守り人』シリーズも今狙っている本です。
    色々読みたいですなぁ。YO-SHIの本の紹介楽しみにしています。
    長くなりました・・・それでは。

  3. YO-SHI

    fayさん、コメントありがとうございました。

    確かにその通り、似たような内容だったら飽きてましたね。
    いくら、ドッグイヤーと言われる、変化の激しい業界でも、
    前著から1年半で、同じテーマの本で新鮮な驚きはムリですね。
    私も、この本自体は楽しめました。前著より自分に引き付けて
    読むことができましたし。

    —-

    零さん、コメントありがとうございました。

    どうも、好きな本(狙っている本?)の傾向が似ているようですね。
    同じ本を読み終わったら、感想を聞かせてくださいね。
    零さんのブログも、たくさん更新されていて、楽しみましたよ。
     

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