チョコレートコスモス

書影

著 者:恩田陸
出版社:毎日新聞社
出版日:2006年3月20日発行
評 価:☆☆☆☆☆(説明)

 これは、面白かった。著者の本はこれで3冊目。人気作家であることも知っているし、この前に読んだ「ドミノ」がとても面白かったので、他の本も..と思ったけれど、ホラー系は苦手なもので、どの作品を読むかずっと逡巡していた。
 本書の表紙を見て「ドミノ」と同じようなテイストを感じて手に取った。でも帯には「そっち側へ行ったら、二度と引き返せない」なんて書いてあるし、表紙だって良く見直したらガイコツだ。ちょっとためらったが、読むことにした。結果的に正解。読んで良かった。こんな面白い本を2年半も放っておいたことがくやしいぐらいだ。

 今回は演劇界の話。役者や作家、監督、プロデューサーなど、舞台に関わる人たちがそれぞれ懸命に生きている世界。そして主人公は、その世界の底辺?に位置する、まだ公演経験もない学生劇団に、新しく入った大学1年生の女子、飛鳥。
 彼女の目線で語られる部分はほんの僅かだし、彼女に絡んでくる女優の響子の方が、その心理が物語のタテ糸として機能しているので、飛鳥を主人公とは言わないのかもしれない。しかし、飛鳥なくしてはこの物語は展開しないし、そもそも始まりさえしなかった。

 飛鳥は、演技の経験が学芸会ぐらいしかないにも関わらず、その卓越した演技で劇団の先輩を驚愕させただけでなく、作家やプロデューサーらプロの度肝をも抜く。どのような演技かは、簡単に紹介できるものではないので、本書を読んでもらうしかない。その場に居合わせた登場人物たちと同じように、読んでいて私も震えが来た。これは、物語に入り込んでしまっていることの証とも言える。もちろん著者の筆力のなせる技だ。
 しかし、私がそれ以上にスゴいと思ったのは、著者のアイデアの豊富さだ。何度もオーディションのシーンがあり、それぞれに難題とも言える課題が課せられる。主人公の飛鳥だけでなく、何人もがそれに挑戦するのだが「そんなやり方があったか」という解答をそれぞれが演じてみせる。当たり前だが、この解答はすべて著者の頭から生まれたもの。恐るべき発想力だ。
 物語のタテ糸を構成する、響子の心理も見もの。オススメの1冊だ。

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9つのコメントが “チョコレートコスモス”にありました

  1. liquidfish

    恩田陸さん、しばらく前に数冊読んだきりで、
    久しぶりに何か読んでみようかと思いました。
    私は「ホラーっぽい」くらいが好きです。笑
    (純ホラーには手を出したことがないです^^;)

    今まで読んだ中では『ライオンハート』が好きです。
    『光の帝国』は、暖かい、懐かしいような感じでお勧めです。
    (どっちもホラー系ではありません。)

  2. YO-SHI

    liquidfishさん、コメントありがとうございます。

    「ホラーっぽい」のが好きな人って結構いるんですね。
    「ライオンハート」と「光の帝国」ですね。
    では、次の恩田作品はこのうちのどちらかにします。
     

  3. るるる☆

    お邪魔しま~す^^
    格調高き数々の書評を楽しませてもらいました。
    言葉が的確でとてもわかりやすい!です。
    恩田陸の本はあまり好きな感じではなかったのですが、この「チョコレートコスモス」の記事読んで、ぜひ読んでみよーと思いました。
    また遊びにきます。よろしく~

  4. YO-SHI

    るるる☆さん、コメントありがとうございます。

    「言葉が的確でとてもわかりやすい」なんて、
    私が一番喜ぶほめ方を的確にしていただいて、
    とてもうれしいです。
    記事の一つ一つにすごく時間がかかってるんです。
    ちょうどイイ言葉がなかなか見つからなくて。

    「チョコレートコスモス」楽しんでいただけると
    思いますよ。最近の私のイチオシの本ですから。
     

  5. こもも

    おはようございます。
    ようやく私も読了しました。

    >こんな面白い本を2年半も放っておいたことがくやしいぐらいだ。
    すごくよくわかります。
    私も、もっと早く、高校時代に読みたかった、この本。
    って強く思ったので。
    すごくいい本ですよね。
    読んでよかったー。と思いました。

    ホラー系、私も苦手なんですけど・・・・。
    ちょっと、読んでみようかと最近思いはじめました。
    しばらくは、恩田作品を読むのが続きそうです。

  6. YO-SHI

    こももさん、コメントありがとうございました。

    楽しんでいただいたようで、私もなんだか嬉しいです。
    こももさんのブログの感想も拝見しました。
    演劇部にいらっしゃたそうですね。

    役者を目指す劇団の皆さんなんかは、この本に
    どういった感想を持たれるんでしょうねぇ?
     

  7. lazyMiki

    YO-SHIさん、こんばんは。
    先日頂いたコメントで、この本がYO-SHIさんの昨年のランキング2位、
    と知り、すごく興味をひかれて読みました^^

    ぐいぐい引っ張られるように最後まで読みました。
    引力というか、力を感じる小説だったと思います。

    先日の「夢をかなえるゾウ」の時もそうだったのですが、どうも
    エキサイト・ブログからだと上手くTBが送れないようで・・・。
    トライしてみたのですが、ダメみたいで残念です。

    教えて下さってどうもありがとうございました<(_ _)>

  8. YO-SHI

    lazyMikiさん、コメントありがとうございました。

    ブログの記事も拝見しました。楽しんでいただけたようで
    私もうれしいです。
    そう、力を感じる物語でした。小説だから言葉だけなのに
    その舞台が見えるような、不思議な経験でした。

    TBの件、私も残念です。何か相性みたいなものがあるん
    でしょうか。期待薄ですが、ココログのサポートに連絡
    してみました。
     

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