予想どおりに不合理

著 者:ダン・アリエリー 訳:熊谷淳子
出版社:早川書房
出版日:2008年11月21日初版
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「本が好き!」プロジェクトで献本いただきました。感謝。早川書房さんのプルーフ版(簡易製本の見本)でいただきました。

 著者はデューク大学の行動経済学の教授で、MITのメディアラボにも籍を置いている。不肖私は20数年前に経済学を学んだ者だが、「行動経済学」という研究分野のことを知らなかった。
 古典的な経済学では「人は合理的に行動する」ことを前提に理論が構築されている。しかし、現実を見ると人の意思決定は合理的ではない。必要ではないものを買ってしまうことの何と多いことか。そこで行動経済学は、人は合理的に行動するという前提をなくし、いわば心理学の見地を取り入れ、人の振る舞いを基礎に置いた経済を研究するものだそうだ。

 まずは、本書にあるちょっとした実験を紹介。日本でもハロウィンの行事が認知されるようになってきたが、著者がハロウィンの日に家にきた子どもに仕掛けた実験(イタズラ?)だ。キスチョコを3つ渡してこう言う「この他に、小さいスニッカーズをもらうのと、キスチョコ1個と交換に大きいスニッカーズをもらうのとどっちがいい?」
 小さいスニッカーズは約30g、大きいのは約60g、キスチョコは約4.5gだ。合理的に考えれば、大きいスニッカーズとの交換が得策だ。でも..この子は一旦もらったキスチョコを手放すのが惜しかったのか、小さいスニッカーズを選んだ。「予想どおりに不合理」だ。
 「子どもだから..」という理由付けをしてしまいがちだが、そうではない。比較のためにやった他の実験では子どもたちは、ちゃんと合理的な判断ができた。そして、何よりも同じような実験を大人(MITの学生が被験者になることが多い。頭の出来は保証付きだと言って差支えないだろう)を対象にしても結果は同じく不合理だ。そんな実験の数々が本書の中にはあふれ返っている。

 実を言うと本書で紹介されている実験結果は、読者にとっても「予想どおり」だ。何となく普段の生活で感じている通りのことで「まさかそんな!」というものはなかった。しかし私は、本書が優れて示唆に富む本だと思う。
 それは、私たちが思う「感じ」を本書はキチンと実験で証明し、その理由を分析しているからだ。理由が分かればうまく利用ができる。もっと大切なのは対策ができることだ。世の中には不合理な行動の結果の争いや悲劇も数多くある。著者はその対策にもいくつか言及しているが、実現することを希望する。

 余談だが、著者は2008年のイグ・ノーベル賞の医学賞を受賞。受賞理由の「高価な偽薬は安い偽薬よりも効果が高いことを証明」に関連する実験も本書で紹介されている。

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4つのコメントが “予想どおりに不合理”にありました

  1. 本の宇宙(そら) [風と雲の郷 貴賓館]

    予想どおりに不合理

     アダムスミスの昔から、経済学の世界では、人間は、自己利益を求めて完全に合理的な行動をするホモ・エコノミクス (homo economicus) としてモデル化されてきた。元々モデル化とは、物事を分析しやすくするために単純化して、そこから真実の切れ端を見つけようとするための……

  2. 風竜胆@本の宇宙

    こんばんは
    TBのお返しとコメントありがとうございました。
    この本、結構面白かったですね。ただ、あまり経済学と言う感じはしませんでしたが。
    思うに、経済学に関する色々なモデルは、ある特定の条件の時に成り立つものを一般的に当てはまると主張するから無理があるのだと思います。
    私の専門の電気工学で言えば、数十ヘルツの周波数で成り立つ電気回路が、メガヘルツやギガヘルツの領域で成り立つと主張しているようなものでしょうね。
    それは、さておき、よろしければ、相互リンクはいかがでしょうか?

  3. YO-SHI

    風竜胆さん、コメントありがとうございます。

    風竜胆さんのブログ記事に書いてありましたが、そもそもモデル
    というのは分析しやすくするために単純化されたものだ、という
    ことを念頭に置かなくてはなりませんね。

    現実の経済は複雑ですから、モデルによる考察には限界がある。
    さらに、従来の経済学は本書にあるように、人々が合理的に
    行動することを前提としていて、能天気としか言いようがない
    わけだから、当たらなくて当然だったのかもしれません。
    (「当たる」という言葉が、既に科学的でないのですが)

    相互リンクの件、早速私のブログへのリンクを貼っていただいたようで
    ありがとうございます。こちらも、右の「リンクリスト」に加えました。
     

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