うちの一階には鬼がいる!

著 者:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 訳:原島文世
出版社:東京創元社
出版日:2007年7月30日初版
評 価:☆☆☆☆(説明)

 本書は、英国で1974年に刊行された。原題は「The Ogre Downstairs」。著者の初期の作品と言っていいだろう。しかし、ちょっと捻りの効いたユーモア感覚や、暴走気味の子ども達の活躍など、最近の作品のファンにも読み応えがありそうだ。
 主人公の子ども達は、再婚した夫婦のお互いの連れ子5人。お母さんの方に3人(男男女)、お父さんの方は2人(男男)。お互いに「感じ悪い」と思っているし、お父さんは厳格で堅苦しい人で、子ども達はなついていない。親の再婚でできた家庭が舞台、なんてヤヤこしい設定からして著者らしいと思う。

 物語は、お母さんの連れ子の3人、キャスパー、ジョニー、グウィニーの視点で進んでいく。母が再婚して1か月、彼らは、横暴で怒鳴り散らすし、何かにつけて小言を言う新しい父親に早くも辟易している。タイトルにある「鬼」はこの父親のことだ。本書1ページ目に登場し、3ページ目には正体が説明されている。タイトルだけ見ると、ちょっと思わせぶりな感じだけれど、実にあっさりしたものだ。
 その父親が、ジョニーと自分の連れ子の弟の方のマルコムに、化学実験セットを買い与えたところから物語は始まる。この実験セットがなんと魔法の薬品類で、それを使った子ども達が事件を巻き起こす。そして、最初の事件は、開始20ページで早くも起こる。
 導入から1つ目のトピックスまでの早さがこんな感じ。このスピード感は終盤まで続き、次から次へと巻き起こる騒動に、登場人物たちも読者も休む暇がない。とにかく展開にたるんだところがない。
 しかも、これはただのドタバタ劇ではない。ドタバタの中で、子ども達のお互いを見る目に変化があり、あの「鬼」に対してさえ違った見方ができるようになる。再婚によって同居することになった人々による、家族の創生の物語でもある。面白くてイイ話なのだ、本書は。

 解説によると、「普通に暮らしていた子どもが、魔法とそれが引き起こすトラブルに巻き込まれる話」を、「エヴリディ・マジック」の物語というのだそうで、表紙裏の紹介にもこの言葉が使われている。「日常の中の不思議」のような意味合いなのだろう。
 しかし、私は「エヴリディ」を「毎日」の意味で使って「毎日(次々と)起きる魔法(の騒動)」の意味だと、解説を読むまで思っていたし「上手く言い表している」と満足していた。だから用語としては、正しくないのだろうけれど敢えて言う。本書は「エヴリディ・マジック・コメディ」、ニヤニヤ・ゲラゲラ笑えて、しかもイイ話だからオススメ。

(ひとりごと)
 今年のランキングを発表した後に追加するのはどうかと思ったけれど、読んじゃったんだから仕方ないよね。

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3つのコメントが “うちの一階には鬼がいる!”にありました

  1. 風竜胆@本の宇宙

    「うちの一階には鬼がいる!」、「鬼」ってなんだろうと思いましたが、母親が再婚した新しいお父さんが厳格だったということなんですね。
    我が国を顧みれば、父親の権威が地に落ちてしまった現在はともかく、半世紀も前なら、「地震、雷、火事、おやじ」と言う言葉があったくらい、そこら中「鬼」だらけだったといってもいいでしょうね(笑)

  2. YO-SHI

    風竜胆さん、コメントありがとうございます。

    「鬼」ってなんだろう、一階で不気味な事件でも起きるのか?
    なんて思いました。読み始める前は。

    カミナリ親父が悪い人ではないように、このお父さんも、
    「鬼」と呼ばれるほどヒドイ人じゃないんです。
    この人もしかしたら鬼なんかじゃないんじゃない?って。
    途中から私は何となくそう感じていました。
    私も父親だから分かったのかもしれませんね。
     

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