こんな日本でよかったね -構造主義的日本論-

著 者:内田樹
出版社:バジリコ
出版日:2008年7月26日初版第1刷 8月17日第4刷
評 価:☆☆☆(説明)

 著者は、新刊再発とりまぜて毎年10冊も本を出し、新聞や雑誌などから事あるごとにコメントを求められるそうだ。本書を読んで、その人気ぶりにも得心がいった。ちょっと変わった視点を提供してくれるし、アカデミックな話題も親しみやすく語れる。本書ではそんな著者が、「格差」「少子化」「学力低下」「愛国」などの興味深いテーマを語るのだ。面白くないはずがない。
 (知ってる人にしかさっぱり分からないと思うけれど)学生時代に「構造と力」や「逃走論」という本を持って(読んでなくてもOK)喜んでいた私にとっては、構造主義とかレビィ・ストロースとか言われるだけで、「あぁ、この人は頭いイイんだぁ」と思ってしまう。

 しかし、本書に種々書かれている内容そのものに目を転じると、3割はなるほどそうかと思うが、6割は同意できない、残りの1割は何が言いたいのか分からない。本書は著者のブログの記事を編集者がピックアップして再編集したものらしい。往々にしてブログの記事は、その時々に思ったことを書くので、首尾一貫したものにはなりにくいのはもちろん、1本1本の記事もそんなに気を配っては書かないのかもしれない。
 だから、本書に対して「ココはおかしい」なんて読み方は本当は野暮なのだろう。「へぇ~そうなんだ。この人はこんな風に考えるんだぁ」と、読み流せば良いのかもしれない。しかしたくさん気になることがあるので、野暮を承知で一つだけ指摘する。
 それは論理展開に潜むミスリードだ。あるテーマを何段階にも展開していくのだが、どうも途中で最初のテーマから微妙にズレるようなのだ。例として「格差社会」についての論理展開を紹介する。

 (1)「格差」とはメディアの論によると「金」のことである。→(2)「金」がないせいでネットカフェで暮らすなどの生活様態を余儀なくされている。→(3)これから導かれる結論は「もっと金を」だ。
 ところで、(4)「格差社会」とは人間の序列化に金以外のものさしがなくなった社会である。(5)「もっと金を」というソリューションは「金の全能性」をさらにかさ上げする。→(6)「金を稼ぐ能力」の差が、乗り越えがたいギャップとしてに顕在化する。となっている。

 そして、格差社会について色々言うのは悪循環を招きはしないのか?という具合に続く。「ほぉ、なるほど」と思わないでもない。一つ一つの→のつながりも間違えてはいない。でも、格差問題解消の結論は「もっと金を」とも言えるが、より丁寧に言うと「衣食住に最低限必要な金(そのための職)を」だろう。
 「衣食住に最低限必要な金を」なら、「金の全能性」をかさ上げすることにはならないはずだ。「もっと金を」という言葉の選択が、論理展開を微妙にズラし、結論を歪めてはいないか?著者の作為的な選択かどうかは分からないが、他のテーマでもこういう論理展開が幾つも見られる。もし、作為的だとすれば、たちの悪い言葉遊びだと思うが、どうだろう?

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5つのコメントが “こんな日本でよかったね -構造主義的日本論-”にありました

  1. liquidfish

    この頃はブログの内容を本にした形の書籍が多くなってきているんでしょうか。本を書くという行為も、そうして書かれた本の読まれ方も、今までとは違った風になっていくのかな…などと思いました。(軽く生産され、軽く消費される?)

  2. YO-SHI

    liquidfishさん、コメントありがとうございます。

    ブログを本にした書籍は増えていると思います。
    テーマを定めて日々書きためた文章が、然るべき編集を経て
    出版されるという意味では、出版に至る敷居を低くした功績
    があると思います。

    ですが、そういったものではなく、ちょっと人気のある人の
    (つまり売れる見込みのある)雑文を出版するという意味での
    ブログの書籍化は、ちょっといだだけません。

    出版業界も「手早く売れる商品」が必要なのだと思います。
    後者のブログの書籍化も、一度人気の出た著者がいれば、
    次々と本を出す(中には口述筆記で思いついたことを言い
    散らしているようなものもあります)のも、このことが理由
    なのではないでしょうか?
     

  3. ゆきまる

    コメントありがとうございます。
    私もブログ覗かせていただきました。
    面白い本をブログで探すことが多いので、今後参考にさせてください!

  4. YO-SHI

    ゆきまるさん、コメントありがとうございます。

    こちらこそ、時々ゆきまるさんのブログをのぞかせて
    いただきます。よろしくお願いします。
     

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