吟遊詩人ビードルの物語

著 者:J・K・ローリング 訳:松岡佑子
出版社:静山社
出版日:2008年12月12日初版第1刷
評 価:☆☆☆(説明)

 ご存じハリー・ポッターシリーズの著者による、魔法界のおとぎ話。最終巻の「ハリー・ポッターと死の秘宝」で、ダンブルドアがハーマイオニーに遺した本として登場する。お話が5つ収録されるこの本が「魔法界に実在するもの」で、それぞれの話に関するダンブルドアのメモがホグワーツの古文書館に残されていたという設定。本書は、著者がそれを人間界に紹介する、という体裁を取っていて、お話そのものと、ダンブルドアのメモと、著者の脚注が加わった形になっている。

 ハリー・ポッターを全巻読み終わっていて、物語の中で少しばかり重要な位置を占める本があって、「それがこれです」って言われれば読んでみたくなるのも自然な成り行きかと思う。実際、私も図書館の書棚で偶然に発見したので、読んでみようかなぁと思って手に取った次第だ。
 その内の1編である「三人兄弟の物語」の概要は、「死の秘宝」でも紹介されているのでご存じの人もいるだろうが、「人間は死を克服しようとしてはいけない」という戒めが含まれている。他の4つのお話にもそれぞれに教訓が含まれている。心を広く持ちなさい、他人を思いやりなさい、正直でありなさい...。言葉にすると陳腐で気恥かしいが、まぁおとぎ話とはそういうものだ。

 こども向けのおとぎ話を大人の目で見て評するのは、いかにも大人げない。だから、お話そのものではなく、ダンブルドアのメモや著者が付けた脚注などについて、少しだけ言わせてもらう。メモには、魔法界の出来事、例えば中世のマグルによる魔女狩りと魔法界の反応などと絡めて、物語の解説が行われている。そして、著者はそのメモに対してさらに解説を加える。
 まぁ大人になって素直になれなくなった私が悪いのだけれど、おとぎ話そのものもダンブルドアのメモもその解説も、結局は著者が書いているのだと思ってしまうと、1人3役が白々しく感じる。特に、著者の解説に「マクゴナガル教授は、以下の点を明確にしてほしいと私に頼んだ。..」なんていう箇所を読むと特にそう感じる。例え脚注でもファンタジーに著者自身が顔を出すのは興を削ぐと思う。
 そうそう、この本の収益は、著者らが設立した弱い立場にある子供の生活の向上を目的とする英国登録の慈善団体に寄付されるそうだ。この本の出版の目的は、この寄付行為にあるのであれば、それもまた良いと思う。

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5つのコメントが “吟遊詩人ビードルの物語”にありました

  1. liquidfish

    ハリー・ポッターシリーズって、形容が難しいですが、
    こってりしてる?ような気がします(アメリカのお菓子みたいなイメージ)。
    解説の手法の話は、いかにも作者らしいと思いました。

    ただ、英語で読もうとした時はそんなにくどさを感じなかったので、
    (細かいニュアンスを汲み取るだけの力がないせいか)
    松岡佑子氏の翻訳による部分がどの程度あるのかが気になる。。
    訳者の好みに従って、元々の傾向に拍車がかかってるとか…(勝手な想像ですが。笑)

  2. YO-SHI

    liquidfishさん、コメントありがとうございます。

    「こってりしている」という言い方に合うかどうかわかりませんが、
    私は日本語の本の方が、幼稚な感じがしていました。
    もちろん英語が「子どもっぽさ」を感じるほど堪能ではないので
    定かなことは言えませんが。

    うちに英語と日本語の「死の秘宝」があるので、2つを見比べました。
    日本語の方は、いろんなフォントや大きさの文字が使われていますね。
    叫び声は英語は大文字、日本語は太字でサイズも大きい。呪文は
    英語は斜体、日本語はポップ体。といった対応があるようです。
    呪文と言えば、英語の「Expelliarmus!」と呪文を唱えるのですが
    日本語は「エクスペリアームス! 武装解除」と、説明っぽいものが
    入るのが、なんとも居心地が悪かったです。
     

  3. YO-SHI

    ツイてる☆速読さん、コメントありがとうございます。

    応援ありがとうございます。
    今後ともよろしくお願いします。
     

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