モダンタイムス

書影

著 者:伊坂幸太郎
出版社:講談社
出版日:2008年10月16日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 伊坂幸太郎さんの単行本の最新刊。漫画週刊誌「モーニング」の2007年4月~2008年5月に連載された小説に加筆修正したもの。短めの章が56章もあるのは、週刊誌の1回連載分が1つの章になっているからだろう。帯に「伊坂作品最長1200枚」とあり最長編になるらしいが、長く感じられないのも短い章の連続のテンポの良さのためだ。「全力疾走した短いお話を56個積み重ねたかのような」と著者も評しているが、まさにそんな感じ。

 主人公は、中堅のシステムエンジニアの渡辺。日々、顧客や営業部門から要求されるムリ目のシステム開発を、睡眠時間と健康を削ってこなしている。彼には他人が羨むような美人の妻がいる。物語の冒頭は、渡辺が拷問を受けるシーンだ。なんとショッキングな。主人公に拷問だなんて。しかも、その拷問の影には美人の妻がいるらしい。いったいどうなってるんだこの話は、という思うほどに初っ端から突っ走り気味に始まる。
 さらに、渡辺の周辺で不可解なことが連続して起きる。連絡がさっぱり取れないシステム開発の発注元の会社。先輩エンジニアの失踪。渡辺自身も暴漢に襲われる。そのカギは宣伝文句にもなっている「検索から、監視が始まる。」だ。どうやらインターネットでの検索を誰かが監視しているらしい。

 「伊坂さんにはまる」と宣言して旧作を中心に何冊か読んできた。最新刊も気になっていたので読んでみたというわけだけれど、本書はちょっと私の好きな伊坂作品とは趣がちがった。面白くないわけではない。「勇気は実家に忘れてきました」なんてセリフもあきれてしまうが何故か好きだし。
 でも、伊坂作品の醍醐味は、緻密に張り巡らされた伏線にあると思っている。騙し絵のように読者を欺くミスリードの巧みさが特長だと思っている。だから「ゴールデンスランバー」以降、伊坂作品は1行も読み落としがないような読み方をしていた。ところが、本書にはそういったものが、私が見たところ見当たらない。
 (私の見落としという可能性も十分あるが)恐らくは、漫画週刊誌への連載という形式が影響しているのだろう。著者あとがきには、「毎回、担当編集者と打ち合わせをし、次号の内容をそのつど決めて..」とあり、全体を俯瞰しての伏線という仕込みはできなかったことが伺える。こういう小説の書き方は、著者に限って言えば向いていないと言うか、もったいないとに思うが、どうだろうか?

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8つのコメントが “モダンタイムス”にありました

  1. チャウ子

    こんにちは。

    モダンタイムは書かれているように、最初から突っ走ってて、話に入りやすかったです。
    ゴールデンスランバーは私は前半はどうも話に入り込めなくて、途中から俄然面白くなったという印象で、大好きな作品です。
    モダンタイムスは欠点らしいところが特にないところが、欠点かも知れないなと思ってしまったのですが。

  2. さーにん

    こんにちは。物語の冒頭は本当にショッキングですよね。
    痛い系が苦手な私は あそこで早々と読むのを挫折しそうになりました(笑)
    でも、後半で書かれていた、虚無は否定しなくてはという考えには深く共感しました。私的には、この本がきっかけでチャップリンの「モダンタイムス」と「独裁者」を観たのも収穫です。

    TBさせていただきますm(_ _)m

  3. ノイ

    初めましてご訪問ありがとうございました。
    伊坂作品って、どちらかというと
    現在と過去を往復するような感じで
    トリックが張り巡らされて
    時折、読み戻らければ分からなくなってしまう
    ものが多いと思いますが
    これは、かなり読み応えがありました。
    『魔王』の投げかけてるもの、その続編だと思えば
    良いのかなって考えました。

  4. YO-SHI

    チャウ子さん、コメントありがとうございます。

    欠点らしいところが特にないところが欠点、ですか。
    なんとなく分かります。編集者と打ち合わせながら、
    という作り方がそういう印象につながっているんで
    しょうね。無難なところに収まっているというか…

    —-

    さーにんさん、コメントありがとうございます。

    痛い系は、私も苦手です。(ホラー系の怖いのもダメ)
    拓海のつめの1つでもはがれていたら読むの止めた
    かもしれません。
    チャップリンの「モダンタイムス」と「独裁者」は
    学生の頃に観ました。もうよく覚えていないので、
    もう1度観ても初めてのように観られると思います。

    —-

    ノイさん、コメントありがとうございます。

    「トリックが張り巡らされて時折、読み戻らければ
    分からなくなってしまう」。その通りだと思います。
    けっこう読むのは大変なんですが、それで「あれは
    そういうことだったのか!」というところが、私は
    好きなんです。

    やはり、「魔王」との関連も大事なのですね。まだ
    未読なので、さっそく手に入れて読もうと思います。

    (こちらにコメントを移させていただきました)
      

  5. たかこ

    YO-SHIさん こんにちは。
    冒頭から突っ走った話でしたね~。連載中に読んでいたら、続きが気になっただろうなぁ。
    伊坂作品、まだまだ初心者です。ゴールデンスランバーから読み始めたので、あんまり違和感感じてないんですよね~。でも、気になる作家さんです。もっと読まなければ!

  6. YO-SHI

    たかこさん、コメントありがとうございました。

    そう全力疾走のマラソンって感じの本でしたね。

    違和感、ってほどではないんですが「やられたっ」っていう
    伏線がないかな、と思ったんです。
    佳代子が意味ありげな言動をするので、何かあるのかなって
    思いましたが、それは分からないままですし。
    でも、そう言えば、ゴールデンスランバーも事件の真相は
    分からないまま。その意味では同じで違和感はないですね。

    ところで、たかこさん、ゴールデンスランバーの第三部の
    ノンフィクションライターの秘密に気がつかれましたか?
     

  7. たかこ

    YO-SHIさん こんばんは。
    そういえば、すっかり忘れていました~。
    第三部、って誰が書いてるの?とかそんなかんじ?とまでは思っていたのですが…(^-^;
    即、再読です~。

  8. たかこの記憶領域

    モダンタイムス / 伊坂幸太郎

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    「実家に忘れてきました。何を?勇気を」なんて、伊坂節炸裂!つかみがいいよねぇ。ゴールデンスランバーと同様に、読み終わった後、…….

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