脳の中の身体地図

書影

著 者:サンドラ・ブレイクスリー、マシュー・ブレイクスリー 訳:小松淳子
出版社:インターシフト
出版日:2009年4月20日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「本が好き!」プロジェクトで献本いただきました。感謝。

 意識のある患者の頭蓋を丸く切り取って、脳に直接電極をあてる。「どんな感じがしますか?」と聞かれて患者は「左手がチクチクします」と応える。こんな研究をやろうと思いつく人がいて、それに協力する人がいたおかげで、身体のどの部分の知覚を脳のどの部分で感じとっているかを示すマップができた。ホムンクルスと呼ばれる、脳の絵の周りに顔や手足が描かれたちょっとグロテスクな感じのするイラストだが、ご覧になった方もいるだろう。

 本書は、上の研究の後に連綿と続く脳の研究(今は、もっとスマートで安全な研究方法が開発されている)の成果を、分かりやすくと伝えようとしたものだ。特に、脳の可塑性についての紹介は明快で面白かった。
 「可塑性」というのは、粘土のように形を自由に変形させることができることだ。例えばスポーツ選手は、ある状況に対する身体の一連の反応を脳に記録できる。それを呼び出すことで瞬時の反応ができる。イチローが150~160キロの直球を軽く打ち返すように。
 スポーツ選手の例はまぁ分かる。ではこんな実験はどうだろう。真ん中に鏡を置いたボックスに右手を入れる。鏡に映った右手が左手のように錯覚して見える。事故で片腕をなくしていたとしても、この同様「ミラーボックス」の実験で、ないはずの腕の感覚領域が脳に復活するのだ。その腕が「ある」ように感じることができる。

 このような特別な例ばかりではない。棒を持ってモノをつつけばそのモノの感触が分かるし、車を運転していて地面の状態を感じることができる。しかし考えてみれば不思議だ。私たちが知覚しているのは、棒や車から感じる僅かな反発や振動でしかない。それが「感触」として認知できるのは、実は脳は棒や車体の範囲にまで身体感覚を延長してマッピングできているのだそうだ。恐るべし、私の脳。
 そうそう、この身体感覚の取り込みに最高度に成功しているゲームはWiiだそうだ。確かに「そこにはないボール」を「そこにはないラケット」で打ち返すことができる。脳こそが最大のバーチャルリアリティを実現していることは、家のお茶の間でも実感できるのだ。

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