プリンセス・トヨトミ

著 者:万城目学
出版社:文藝春秋
出版日:2009年3月1日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「鹿男あをによし」で奈良、「鴨川ホルモー」で京都を舞台に、奇抜な着想で物語を描き出した著者が、次に舞台に選んだのは出身地の大阪だ。さらに詳しく言うと、大阪城の南に位置する急坂の商店街「空堀商店街」。視界さえ開ければ大阪城天守閣が拝めるくらいの距離だ。タイトルの中の「トヨトミ」はもちろん、かつての大阪城の主であった「豊臣家」のことで、「プリンセス」ももちろん「姫」だ。本書は、多くの人がタイトルを見て思ったとおりに「豊臣家の姫」の物語。
 そうは言っても、奇抜な着想が特長である著者のことだから、一筋縄ではいかない。物語はあらぬ方向へ向かい、信じ難い出来事を引き起こしながら、豊臣家の姫の物語に収れんしていく。

 主人公の名前は真田大輔。大阪には信州上田の真田家が好きな人が多い。空堀商店街の近くに真田山という地名があるが、ここは大阪冬の陣の際に真田幸村が真田丸という出城を築いて奮戦した地の跡と言われている。夏の陣での幸村の戦死の地と言われている安居神社では今でも幸村祭が行われる。
 上田の人に聞いたのだが、大阪で上田から来たと言ったら「真田は太閤さんの味方だから」と言っておマケしてもらったそうだ。400年以上前の出来事が今の大阪の人の心に生き続けている。本書では真田家のことは匂わせる程度にしか書かれていないが、このことはストーリーに大きく関わっている。

 表紙は、本書の準主人公である会計検査院の調査官3人が、お堀越しに大阪城天守閣を仰ぎ見る絵だ。実は私はこれとそっくりな構図の大阪城を見たことがある。大阪に出張で深夜にホテルに入って、翌朝の朝食をとったホテルのレストランから間近に見えた大阪城がこんな感じだった。関西に生まれ育っても大阪城を見る機会はそんなにないものだ。その威容にしばし圧倒されたのを覚えている。
 上に書いた「信じがたい出来事」というのは、ある目的を持った仕掛けなのだが、私に言わせれば「大仕掛け過ぎる」。しかし、大阪城のあの威容をいつも感じて、400年以上前の出来事を胸に抱いている大阪の人々なら、これぐらいの空想はアリなのかもしれない。

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9つのコメントが “プリンセス・トヨトミ”にありました

  1. るるる☆

    読みたい!読みたい!
    図書館の予約は3ケタいってて気長に待ってます(^^;
    YO-SHIさんの書評読んで面白そうなので購入も考えてます。
    大阪人必携の書となり得るでしょうか~。
    私も年に3回くらい所用で大阪城に通ってた時期がありましたが、行くたびに天守閣を仰ぎ見ては圧倒されてました。
    見るたびに驚いてしまうのは、太陽の塔と同等のものがありますね(^^;
    私も真田幸村大好きなので読むのが楽しみです^^

  2. YO-SHI

    るるる☆さん、コメントありがとうございます。

    予約が3ケタって、それはスゴイですね。複本で持ってるん
    でしょうか?でなければ、何年も先になってしまいますね。

    るるる☆さんは、大阪の人ですか?京都や奈良、阪急電車
    ネタを読んで、そうじゃないかとは思っていましたが。
    だとすれば、うらやましい。私が大阪人だったら、この
    レビューに「万城目さん、それは秘密のはずだよ」って
    書けたのに、って思いましたから。
     

  3. チャウ子

    こんにちは。
    またお邪魔しますm(_ _)m

    これすごく好きな作品で、今のところ私の中では今年のNO.1です。

    私が特に好きだったのは、会計院の3人の描写なんです。エリートのエリートらしからぬ良さが出てるなあと。

    空堀商店街は行ったことがないので、今度行ってみようっと!

  4. YO-SHI

    チャウ子さん、コメントありがとうございます。

    チャウ子さんも大阪の人でしたね。うらやましい。
    それも「男のやってることなんてお見通し」の女ですね。

    アイスをかじるエリートも素敵ですが、旭に「フランス語
    しゃべられへんねん」と言われたら、誰だって好きになって
    しまうでしょう。美人と関西弁の組み合わせは無敵です。
     

  5. moon

    はじめまして!
    先日読み上げて、面白かったな!というのと、同時に
    大阪人である自分が嬉しくなりました。
    以前、大阪城の近くにある貸し会議室で仕事を
    したことがあるのですが、大阪城を見ながらする
    仕事ってなんだか気持ちよかったです。
    大阪城って大阪人にとってただのお城じゃないのね。。。なんて
    改めて思いました。

  6. YO-SHI

    moonさん、コメントありがとうございます。

    大阪の話を書いて、それを読んだ大阪の方が嬉しくなっている
    なんて、万城目さんが聞いたら喜ぶでしょうね。
    信じがたい大仕掛けも「あったらおもろいやん」という点では
    充分に受け入れる雰囲気がありますね。大阪の街にも人にも。
    大阪ではありませんが、私も関西人。そのへんは分かります。
     

  7. 板栗香

    こんばんは~♪本カフェでお世話になっております。(^^ゞ
    TBを送ってみようとしたのですが、なぜかエラーになってしまいコメントのみで失礼します。(^^;ゞ

    私は大阪人なので読んでいる間中郷土愛を刺激されまくりで嬉しくなってしまいました。(笑)でもやっぱり物語が動き出すまでが長いのでちょっと前半は、ダレてしまう面はあったかなぁと。でもその分終盤はぐっと良かったのですが。荒唐無稽な大法螺話なんですけど、実際にありえそうって思えてきますよね(^^ゞ

  8. YO-SHI

    板栗香さん、コメントありがとうございます。

    大阪の人には堪らないでしょうね。
    私は高校の時まで神戸に住んでましたから、少し分かります。
    というか、ちょっと羨ましかったりします。

    余談ですが、うちの中1の娘が、昨夜「税金のムダ使い」
    のことをニュースでやっているのを見て、
    「これって、会計検査院の仕事?」って言ってました。
    彼女は、府警で旭が鳥居を救出する場面がお気に入りです。

    TBの件はごめんなさい。どうしてなのか分からないのですが、
    時々、うまくいかなかったというお話をいただきます。
     

  9. 観・読・聴・験 備忘録

    『プリンセス・トヨトミ』

    万城目学 『プリンセス・トヨトミ』(文春文庫)、読了。
    初めての作家さんですが、ヒット作が多いので期待してました。
    が、しかし・・・・・イマイチでした。
    序盤の会計検査院の業務を描写するくだりは、
    3人のキャラクターの妙もあって、面白く読めました。
    でも、中学校の話に移った時に、いろんな要素を詰め込み過ぎて、
    読みづらく感じました。とにかくスピード感がない・・・。
    ……

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