恋文の技術

著 者:森見登美彦
出版社:ポプラ社
出版日:2009年3月6日初版
評 価:☆☆☆(説明)

 10ヶ月ぶりのモリミー。今回は全編が手紙、というなかなか凝った趣向だ。実在のものとフィクションを合わせて、往復書簡の形で一連の出来事を綴ったものは数多く出版されているが、本書は、往復している手紙のやり取りの一方だけで綴っていく。返信の分は読者が想像するしかない。

 主人公は守田一郎、京都の大学の修士課程1年生。研究室の教授の命で、大学院に進んだ4月にクラゲの研究のために、能登半島に抱かれた七尾湾に面した「能登鹿島臨海実験所」に派遣された。いやハッキリ言えば飛ばされたのだ。
 家族や友人知己からも住み慣れた街からも隔絶された彼が、そこで始めたことは「文通武者修行」。文通によって文才を磨き、どんな美女でも手紙一本で籠絡する技術を身に着けるという野望だ。(あぁアホらしい)

 こんなわけで、守田が研究室の友人や先輩、家庭教師をしていた小学生、そして偏屈作家の森見登美彦氏!らに対して、半年あまりの間に出した手紙の数々が本書の大部分。友人の恋の相談に乗ったり、小学生の悩みに付き合ったり、作家に恋文の奥義を請うたりと、武者修行だけあって書きも書いたりその数は100通を超える。
 まぁしかし、その内容のクダラナイこと、その行いのナサケナイこと。著者の作品に度々登場する「腐れ大学生」が極まった感じだ。そんなヤツの書いた手紙だから、文章だってグダグダだ。ところが、このサイテーのグダグダな文章が、なぜか面白い(モリミー風に言うと「オモチロイ」)。特に中盤の大塚女史との対決には、片方の手紙だけでここまで描けるかと目を瞠った。

 「こんなの何が良いの?」という人もいるだろう。好き嫌いはあると思う。最初に読む森見作品が本書ではちょっとキツいかもしれない。著者の他の「腐れ大学生」モノがお気に召した方にはオススメ。

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8つのコメントが “恋文の技術”にありました

  1. るるる☆

    こんばんわ。往信部分だけ・・というのが憎いです!
    半分は、それぞれの頭の中で思い描く、腐れ大学生物語となるのですよね。
    森見ファンにしかできないことです・・。
    守田同様「机上の妄想」が趣味の私は、心ゆくまで(?)の壮大な阿呆ワールドを展開して
    楽しんでしまいました(^^;

  2. YO-SHI

    るるる☆さん、コメントありがとうございます。

    壮大な阿呆ワールド、モリミーの世界を的確に言い表していますね。

    アホらしい、とは書きましたが、大学生のころの(25年前!)の私は、
    守田に劣らぬ自意識過剰の妄想青年で、おまけに京都に住んでました。
    友達の下宿で、合コンで会った女の子の話と、将来どんな大物になるか
    と言った話を延々と....「腐れ大学生」とは私の過去の姿です(笑)
    あぁハズカシイ。
     

  3. きよりん

    こんにちは^^)森見さんの作品は、これが最初だったのですが、おもしろかったけど、途中でちょっと飽きました・・
    この手の本は、ゆっくりニヤニヤしながら読むのが、きっといいのかも

  4. YO-SHI

    きよりんさん、コメントありがとうございます。

    お返事が遅くなってごめんなさい。
    途中でちょっと飽きました、って気持ちよく分かります。
    後半にもうひと盛り上がり欲しいところですね。

    それにしても、この本が面白かったのなら、森見さんの
    他の本も面白いと思います。
    「有頂天家族」がおススメです。
     

  5. たかこの記憶領域

    恋文の技術 / 森見登美彦

    あぁ〜、やっぱりこれが普通のモリミーか。
    「『俺という大黒柱を失う京都が心配だ』と嘆いていたら『その前に自分の将来を心配しろ』という妹」。主人公の妄想ぶりもすごいが、本質をつきすぎる妹もまたおかし。最初の数ページでやられた!と思った。
    京都の大学から…….

  6. たかこ

    YO-SHIさん こんばんは。

    「腐れ大学生」モノがお気に召した方の一人です(笑)
    これはオモチロかったですねぇ~。
    手紙という形式がよかった。
    返信の部分がわからない分、妄想がかきたてられますよね。
    こんな大学生活いいなぁ、と思います(戻りたくないけど)

  7. YO-SHI

    たかこさん、コメントありがとうございます。

    たかこさんのこれまでモリミー作品への感想からすると
    たぶんモリミー中毒ですね(笑)

    この本は「モリミー依存度」を図るのに良いと、密かに
    思っています。この本が面白い人は「重度」です(笑)

    ちなみに、私はとてもオモチロかったです。
     

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